失くしたあなたの物語、ここにあります
 話しかけられて驚いた。

 人見知りしない人なのだろう。爽やかな笑顔が印象的な、飾り気のない綺麗な女性だ。どちらかというと、派手めに見られやすい沙代子にとって、あこがれてしまうような透明感がある。

「何を頼まれたんですか?」

 世間話をするように話しかけてくる。ここ数日、同世代の女性との会話に飢えていた沙代子も嫌な気はしなくて応じる。

「店長さんのおすすめで、フレッシュカモミールを」
「へー、フレッシュハーブも飲めるんですね。そっか、ハーブティー専門店ですもんね。そうですよね」

 勝手に納得すると、彼女は「同じものください」とお水を出す天草さんに注文する。

「あっ、一緒のもの頼んじゃってよかったですか?」
「おすすめですから、ぜひ」

 真似されたと気を害すとでも思ったのか、わざわざ断りを入れてくると、彼女はふたたび店内を見回す。

「ちょっと変わった古本屋があるって聞いてきたんですけど、古本屋っていうより、カフェなんですね」

 古本屋はおまけって感じ、と彼女は誰に向けるでもない様子で言う。

 ずいぶんと好奇心旺盛な女性のようだ。見た目は清楚だけれど、明るくてはつらつとした人のような気がする。

「実のところ、本を目当てにいらっしゃるお客さまは1割もいらっしゃらないんですよ」
「じゃあ、私はその1割も満たない珍しいお客さんなんですね。ハーブティーが飲めるなんて思ってなかったから、得しちゃった気分」
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