失くしたあなたの物語、ここにあります
「同じというと?」
「あっ、一緒なのは、下の名前だけ。柳井菜々子(やないななこ)さんって方です。私は、漢数字の七を間に挟んだ、菜七子なんですけど」
「柳井菜々子さんの空の鼓動ですね。お調べしますので待っていてください」

 菜七子さんの話に相づちを打ちながら、天草さんはキーボードを軽やかに叩く。

「10年前でもう、発売から5年ぐらい経ってたのかな。今は絶版になってるみたいで、どこを探しても在庫切れで見つからないんです」

 本棚に目を向ける彼女につられて、沙代子もずらりと並ぶ本を眺めた。

 雑誌や文庫本、絵本やビジネス書までさまざまある。規則正しく並んでないから、欲しいと決まっている本を探し出すのは大変かもしれない。

 沙代子は宝探しを楽しむように、本棚を眺めた。

 沙代子も昔は小説を読むのが好きだった。知ってる本が見つかるかもしれないと、文庫本を中心に一つ一つ見ていく。そうして、真ん中より下の段に見覚えのあるタイトルを見つけたとき、心の中で、あっ、と声をあげていた。

 懐かしい。まだ父はこの本を持っていたのだ。

 腕を伸ばしても届かない距離にある本棚へ、思わず手を出しかけたとき、隣の菜七子さんも「あっ」と声をあげた。

「柳井菜々子さんの本、ありましたっ。一番上の段に」
< 26 / 211 >

この作品をシェア

pagetop