失くしたあなたの物語、ここにあります
彼女は子どものように無邪気に、人差し指を上へ向けて突き出す。
「ありましたか? それはよかった。こちらのデータを見ても、柳井菜々子さんの書籍で在庫があるのは、空の鼓動だけですね」
「見せてもらえますかっ?」
ひょいと棚から本を取った天草さんは、興奮して立ち上がる菜七子さんの前へ差し出す。
「本当に見つかるんですね」
しみじみと、彼女は本の表紙を眺めて言う。
空と雲を描いた、青と白のシンプルな表紙だった。
「本当にって?」
なんてことはない彼女のつぶやきだったが、意味深げに聞こえて、沙代子は尋ねた。
「ここを教えてくれた人が、なかなか見つからない本が見つかる古本屋だよって教えてくれたんです。まるで、本が待っててくれてるみたいなんだよって」
沙代子と天草さんはどちらからともなく顔を合わせた。そんなことあるだろうか。本が見つけてもらうのを待ってるだなんて。
菜七子さんは本をぱらぱらとめくると、「あたりまえだよね。あるわけないよね……」とつぶやいて、気の抜けたように座り直す。
あるわけないって、何が? と気になって、思わず本をのぞき込んだが、菜七子さんは本の内容には興味がないように、ぱたんっと閉じてしまった。
「大騒ぎしちゃってごめんなさい」
「あ、ううん。私の方こそ、勝手にお話を聞いちゃってて。ずいぶん、思い入れのある本なんですね」
そう話しかけると、彼女は深刻そうに目線を落として言う。
「思い入れがあるっていうか……。実は私、プロポーズされてるんです」
「えっ!」
「ありましたか? それはよかった。こちらのデータを見ても、柳井菜々子さんの書籍で在庫があるのは、空の鼓動だけですね」
「見せてもらえますかっ?」
ひょいと棚から本を取った天草さんは、興奮して立ち上がる菜七子さんの前へ差し出す。
「本当に見つかるんですね」
しみじみと、彼女は本の表紙を眺めて言う。
空と雲を描いた、青と白のシンプルな表紙だった。
「本当にって?」
なんてことはない彼女のつぶやきだったが、意味深げに聞こえて、沙代子は尋ねた。
「ここを教えてくれた人が、なかなか見つからない本が見つかる古本屋だよって教えてくれたんです。まるで、本が待っててくれてるみたいなんだよって」
沙代子と天草さんはどちらからともなく顔を合わせた。そんなことあるだろうか。本が見つけてもらうのを待ってるだなんて。
菜七子さんは本をぱらぱらとめくると、「あたりまえだよね。あるわけないよね……」とつぶやいて、気の抜けたように座り直す。
あるわけないって、何が? と気になって、思わず本をのぞき込んだが、菜七子さんは本の内容には興味がないように、ぱたんっと閉じてしまった。
「大騒ぎしちゃってごめんなさい」
「あ、ううん。私の方こそ、勝手にお話を聞いちゃってて。ずいぶん、思い入れのある本なんですね」
そう話しかけると、彼女は深刻そうに目線を落として言う。
「思い入れがあるっていうか……。実は私、プロポーズされてるんです」
「えっ!」