失くしたあなたの物語、ここにあります
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 本の交換を始めたきっかけは、今となってはあいまいで、よく覚えていない。

 松永(まつなが)菜七子が読書家の村瀬翔(むらせしょう)の気を引きたくて貸してほしいと言ったのか、はたまた翔が勉強もスポーツもできる優等生の菜七子に唯一誇れる読書量をアピールするために言い出したことなのか。

 とにもかくにも、菜七子と翔は隣の席同士という以外、接点のない相手に出会ったときから興味があったのだ。

 なぜだか、心惹かれる相手。そういうものではないかと、菜七子は大人になった今でもそう思う。

 その日は、生徒会役員選挙立候補者の発表日だった。菜七子の通う高校は進学校で、本当か嘘かは定かではないが、受験勉強に専念したいという理由で、副会長に立候補する生徒が集まらなかったようだ。困った先生に呼び出され、立候補してくれないかと頼まれた菜七子が教室に戻ると、クラス内は立候補者の吟味で盛り上がっていた。

 中でも、陸上部に所属する学校一のイケメンである相田(あいだ)くんが生徒会会長に立候補してるのは注目を集めていた。

 同じく陸上部の菜七子は、彼が推薦で体育大学に進学すると知っていた。彼なら生徒会活動ができるだろうと、先生に頼まれた口かもしれないと菜七子は思った。

「人気だね、相田くんは」

 席に着くと、意外にも翔がそう言った。

「珍しいね、村瀬くんが誰かを気にするなんて」

 どちらかというと地味な翔はいつも本を読んでいて、何かを聞けば、色とりどりの言葉でさまざな知識を返してくれる。そんな彼が、同級生のうわさをするのは聞いたことがなかった。

「珍しいかな」

 と彼は苦笑した。

「誰にも興味ないと思ってた。あっ、いい意味でね」

 彼の持つ厭世的な雰囲気が、大人びて見えて菜七子は好きだった。

松永(まつなが)さんも出るの?」
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