失くしたあなたの物語、ここにあります



「結局、翌日の学校は変わった様子もなくて、何もかも普段通りでした」

 正直、ほっとしたのだと、菜七子さんは告白した。自分の罪を隠して、何事もなかったように過ごせる。そう思う気持ちがあったのだと。

「村瀬さんには、なんて?」
「本をなくしたことは、素直に謝ったんです。翔は別にいいよって簡単に許してくれて、栞のことは何も言わなかった。だから私も、栞には気づかなかったふりをしたの」

 菜七子さんは消え入りそうな声をしぼり出すと、カモミールティーを口に運んだ。

 飲み干すと、少し落ち着きを取り戻したような笑顔を見せる。天草さんの淹れるハーブティーは、ふしぎと元気がもらえるみたい。

「じゃあ、告白の返事は?」

 尋ねると、菜七子さんは力なく首を横に振る。

「言わなかった。翔も、卒業するまで二度と告白してこなかったし。私は後ろめたくて、何も言えなかった」
「でも、プロポーズしてくれたのって、その村瀬さんって方なんでしょう?」
「そうです。翔とは違う大学に進学して、疎遠になったんです。再会したのは、就職してから。たまたま、本当にたまたま。居酒屋で偶然、隣の席になって」
「隣の席で再会って、いいね」

 天草さんがそう言う。まさに、沙代子もそう思ったところだった。

「翔も、そう言ってた。隣の席に縁があるねって。その日はお互いに友人と一緒だったから、改めてゆっくり話そうって連絡先を交換して、それから二人で会うようになって」
「お付き合いを始めたんですね」
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