失くしたあなたの物語、ここにあります
「亡くなった? あのおじさんが?」

 彼女の目が点になる。本当に何も知らずに訪ねてきているのだろう。

「はい。店は城下町に移転して、父の知人が跡を継いでます。もし、父にご用件があるのでしたら、私が」
「移転……」

 と、口ごもる彼女は目を泳がせる。何か考え込む様子だったが、しばらくすると、意を決した様子で口を開く。

「私、ある小説を探してるんです」
「本をお探しだったの」

 ちょっと拍子抜けした。普通に古本を探すお客さんだったみたい。父にしかわからない用事だったらどうしようと心配していたけれど、自分で解決できそうだと、沙代子はあんどした。

「本のタイトルがわかるなら、すぐにお調べできますよ。移転先は近くなんですけど、ご案内しますね」
「いいんですか?」
「ええ。私もちょうど行くところだったんです。お店には、よく出入りしてて」

 全然行く予定はなかったけれど、まろう堂の場所を説明するより、案内した方が早いと思って、沙代子はそう言った。

「じゃあ……、お願いしようかな。先日、友だちが探してもらった本だから、売れてなければあると思うんですけど」
「ご友人がいらしてくれたんですね」
「ずっと探してた本が見つかったって連絡をくれて。でも、買わなかったって言うから、どうしてだろうって見に来たんです。そうしたら、お店は閉まってるし、友だちがどこで本を見つけたのか、ふしぎに思ってて」

 それで、何度もまほろば書房に足を運んでくれていたらしい。

「今はまほろば書房じゃなくて、まろう堂っていう、カフェと古本のお店になってるんです」
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