失くしたあなたの物語、ここにあります
「カフェ?」
「はい。ハーブティー専門の」

 まほろば書房を探していたのでは、城下町を何度行き来しても、見つけられないだろう。その不親切さが父らしいのだけど、これまでにも困ったお客さんが何人もいたのではないかと申し訳ない気持ちにもなる。

 だからって、経営スタイルに注文つけるわけにはいかないし、と考えていると、彼女が何か思い出したように、「あっ」と声をあげた。

「友だち、フレッシュカモミールを飲んだとか言ってて。何の話だろう? って思ってたんですけど、古本屋さんでハーブティーを飲んだんですね」
「フレッシュカモミールなら、今の季節にしかないおすすめなんです。ご友人がいらしたの、本当に最近なんですね」
「隣の席に座ってた綺麗な人が飲んでて、飲みたくなったって言ってました。友だち、その綺麗な人に高校時代の昔話しちゃったって言ってて。すっごく迷惑ですよね」

 苦笑いする彼女を、じっと見つめる。どこかで見てきたような話だ。沙代子が考え込むと、彼女は様子をうかがうように言う。

「何かご存知ですか?」

 綺麗な人って、そこは否定したいけれど、沙代子は知ってると思う。

「もしかして、菜七子さんのお友だち?」

 目を丸くした彼女を見たら、推測が確信に変わる。

「失礼ですけど、あなたは睦子さん?」
「菜七子、そんなことまで話したんだ」

 ため息をつくように言う。おしゃべりな菜七子さんにあきれてるみたい。

「あっ、聞いたって言ってもね、昔になくした本を探してるって話だけ」
「いいんです。私の名前まで出して、いろいろ話したんですよね。菜七子、昔から人懐こいっていうか、誰にでもすぐに打ち解ける子だったから」

 睦子さんが不機嫌になったように見える。余計なことを言ってしまったかもしれない。

「そうですよね。全然、人見知りしない方だったから、お話が楽しくて」
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