失くしたあなたの物語、ここにあります
 そう言いながら、天草さんはここで何をしてるのだろう。

「今も仕事中?」
「違うよ。今日は葵さんに会えるかなと思ってきたんだよ」
「えっ! 私?」

 目を丸くする沙代子がよほどおかしかったのか、天草さんは顔をくしゃりとして笑う。

「最近、よくうちの前を通ってるよね。なんとなく、神社に来てる気がしてさ」
「えー、よく見てるね」
「まあね」

 と、彼ははぐらかす。

「用事があるなら、声かけてくれてもいいのに」
「じゃあ、これからはそうする。葵さんはここに何しに来てるの?」
「あっ、実はね、菜七子さんに会いたくて。恋岩って、最近は恋人の聖地になってるみたいだから、村瀬さんと来てるかもしれないと思って。でも、今日もいないみたい」

 恋岩の行列や参道を見回しても、菜七子さんらしき女性の姿は見つけられない。

 あたりまえだ。待ち合わせしてるわけでもないのだから、会える方がおかしい。目を丸くする天草さんを見たら、自分の無謀さ加減が恥ずかしくなってくる。

「探してるんだ? 菜七子さんを」
「うん。ほら、時間だけはあるから。まろう堂には、あれから菜七子さん、来た?」
「来てないよ。本もあのまま。気になるなら、入ってきていいよ。古本だけ見て帰るお客さんもいるから、妙な気づかいはいらないよ」

 あきれてるはずなのに、天草さんは優しくそう言ってくれる。

「毎日はおじゃまでしょう?」
「葵さんなら歓迎だよ」

 その言い方には、どきりとする。自分だけが特別なんだと勘違いしてしまいそうだ。

「そ、そう?」
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