失くしたあなたの物語、ここにあります
「うん。あっ、そうだ。菜七子さんがいらしたら連絡するよ。連絡先、交換しよう」

 そう言って、天草さんはポケットからスマートフォンを取り出す。

「いいの?」
「こちらこそ」

 くすりと笑う天草さんと早速、連絡先を交換する。お守りをもらったような気分だ。神社に来てるから余計にだろうか。

「葵さん、恋岩占いしたことある?」

 天草さんが不意に大岩を指差す。

「えっ、ないよー。行列に並んでまで占いたい恋なんてないもの」

 なんという色気のない返事だろう。自分で自分を叱りたくなる。

「じゃあ、恋岩は見たことある?」
「写真撮ったらバチがあたるって言われてるでしょ? 写真でも見たことないよ」
「そうなんだ」
「天草さんはあるの?」

 あるとしたら、それは天草さんが好きな人と結ばれたくて占ったことがあるってことなんだけど。

「どうかな」
「え、なにそれー」

 天草さんは、ふふん、と笑って煙に巻くと、「おまいりに行こうか」と、恋岩に背を向けて歩き出す。

「菜七子さん、近いうちに来るよ」

 彼は断言する。それは、こうして探しに来る必要はないんだよ、って言ってくれてるのだろう。

「天草さんが言うと、本当にそうなる気がするね」

 彼の優しさに応えるように、沙代子は微笑んでそう言うが、同時に、彼を信じていれば、何かいいことが起きるような気もしていた。
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