失くしたあなたの物語、ここにあります
「私が唯一、睦子に言わなかったことがあるんです。翔が好きだって、内緒にしてた。親友だったのに。ずっと隠してた。睦子、私と翔のこと、どう思ってたんだろう」

 菜七子さんはシールを丁寧にはがして封筒を開く。

「これ……。なんで、睦子が……」

 中身を取り出した菜七子さんは絶句する。

「そっか。睦子だったんだ……」

 ほどなくして、菜七子さんの中ですべてがつながったかのように、力なくそう言う。

 無言で見守る沙代子に見えるように、彼女は栞サイズの紙をカウンターに乗せた。

 紙はしわくちゃになっていたが、重しを乗せて伸ばそうとした苦心が見えるかのようにまっすぐ伸びていた。

「……封筒の中身、ご存知だったんですよね。睦子から聞きました?」
「本当のことを言うと」

 うなずくと、菜七子さんは頼りなげに眉を下げる。

「睦子、一生懸命伸ばしたのかな。きっと、ごめんねって思ったから、元通りにしようとしたんですよね。でも、元通りにはできないんだって気づいて、ずっと黙ってたのかな」

 菜七子さんを傷つけた心はもう戻らない。紙に刻まれたしわのように。どんなに必死に伸ばしてもしわは消えず、罪は消せないと気づいただろう。

「睦子さん、菜七子さんが大好きなんですね」
「今でも、そう思ってくれてるでしょうか」
「はい」
「……本当にそうかな。自信ない」
「大丈夫です。そう思います」

 沙代子が自信満々に言うから、菜七子さんはくすりと笑って胸を張る。優等生の彼女はいつだって、こうやって自身を励ましながら立ち上がってきたのだろうと思えるほど、その姿は毅然として美しかった。

「来てくれるかわからないけれど、睦子を結婚式に招待してみます」

 なんで黙ってたんだってケンカして、泣いて笑って仲直りができる日が来るようにと、沙代子は祈る。壊れたものが元通りになってほしいと願うのは、今の沙代子には何もないからだろう。

 私にも取り戻せる何かがあるだろうか。

 沙代子は菜七子さんを羨ましく眺めながら尋ねる。

「プロポーズのお返事はしたの?」
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