失くしたあなたの物語、ここにあります
第二話 落ちこぼれ魔女の親友
「アルバイト?」
「うん、駅前のカフェ。もう新しい人が決まっちゃったんだって」

 生まれ故郷である城下町の生活に慣れ、以前のような暮らしを取り戻そうと思い始めた沙代子は今朝、求人募集していたカフェへ意気揚々と電話したのだが、あっけなく断られ、すっかり入り浸りになっているまろう堂にやってきていた。

 求人情報誌をパラパラとめくりながらため息をつくのに、天草さんは楽天的な笑みを浮かべている。

「残念だったね。葵さんなら、次がすぐに見つかるんじゃないかな」
「近くておしゃれだし、働きたいカフェだったんだけどなぁ。仕方ないね。ほかを探してみる」

 沙代子は求人情報誌をバッグにしまうと、天草さんの背後にある本棚を眺めた。

 まろう堂はハーブティー専門のカフェだけど、古本の販売もしている。その古本は、古本屋を経営していた沙代子の父である銀一が遺したものだ。

 沙代子は先日、ふしぎな話を耳にした。それは、ここにある古本たちが誰かを待っているという話。

 にわかには信じがたい話だったが、沙代子は本当の話かもしれないと思っている。古本たちは今、健気に誰かを待っている。もしかしたら、自分を待ってくれている本があるかもしれない。ひどく馬鹿げた話かもしれないが、沙代子はわりと真面目にそう考えたりもするのだ。

「古本は売れてる?」

 沙代子は本棚の横にある、予約済の箱へと視線を移した。待ち人に出会えた本たちは今、予約済の箱に入っているのだろうかと思う。
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