失くしたあなたの物語、ここにあります
「そうなんだ。どんな人?」

 沙代子は動揺した自分に気づいたが、つとめて明るく尋ねた。

「知りたい?」
「ちょっと興味ある」

 天草さんは沙代子の目をじっと見つめる。はからずも見つめ合ったが、好奇心をわざとらしく見せたら、根負けしたように彼は口を開く。

「俺、気になってる子がいて、その子は……」
「その子は?」
「ハーブティーが嫌いな子なんだ」
「え、そうなのっ?」

 意外な返答に驚く。

「でもさ」

 そう言いかける天草さんを沙代子は遮る。

「大丈夫だよ。天草さんの作るハーブティーを飲んだら、絶対好きになると思う。だって、世界で一番おいしいハーブティーだと思うから」
「えっ、あ……うん」
「だから、悩まなくても大丈夫」
「悩むっていうか」

 彼はそう言ったが、すぐに頭を振って、なぜだかおかしそうに笑う。

「まろう堂に誘ってみたら? ほら、古本を見にきてって言ってみたら来てくれるかもしれないよ?」

 なんで天草さんの恋を応援してるんだろう。

 沙代子はそう思いながらも、さっきから感じてる焦りを隠すように一方的に吐き出すが、彼はますます笑顔になって、少年のように素直にうなずいた。

「そうだね、そうする。ありがとう、葵さん」
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