失くしたあなたの物語、ここにあります
 それから、みんなでベッドを取り囲むようにして、先生と会話を弾ませた。

 胃痛の原因ははっきりしないが、ストレスによって胃に穴が空いてしまったのだろうと言っていた。思うより、彼は繊細な人なのだろうと、京子はそのとき思った。

「検温の時間ですよ」

 ナース服の看護師さんが病室に姿を見せると、ようやく京子たちはベッドから離れた。

「みなさん、生徒さん?」

 明るい笑顔で、看護師さんは京子たちを眺めた。

 年の頃は京子たちとほとんど変わらないような若い女の人だったが、堂々とした態度としっかりとした口調が、彼女を大人びて見せていた。そして、京子にはない派手さを備えた美しい容姿に圧倒された。

「君たち、もう帰りなさい。これからカフェでお茶をするにはいい時間だ」

 水無月先生がそう言うと、「この近くにケーキのおいしいお店があるんだって。寄って帰ろー」と誰かが言った。みんなも、「いいね」と同調して、すぐに帰ろうという雰囲気になった。

 京子はまだ先生の側にいたかったが、みんながこぞって病室を出ていくから、しぶしぶついていった。去り際、未練がましく振り返ると、看護師さんが先生に体温計を渡していた。

「かわいらしい生徒さんたちですね」

 看護師さんがそう言うと、先生はほがらかに笑んで、彼女の顔を長々と見つめていた。その表情は決して大学では見せないような、一人の男のものだった。

 ああ。先生って、ああいう人がタイプなんだ。

 自分にはない魅力を持つ彼女に戦う前から敗北感を覚えた京子は、ケーキを前に盛り上がる友人たちから取り残されたような気分でその日を過ごした。
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