失くしたあなたの物語、ここにあります
それからひと月後、街へショッピングに出かけると、すっかり元気になった水無月先生を見かけた。
カジュアルな服装に、さらさらの髪。大学にいるときとは全然違う彼を、最初は先生と気づかなかったが、前傾姿勢で上着のポケットに片手を突っ込んで歩く姿が特徴的で、やはり彼だと確信した。
買い物を終えたばかりだった京子は、カフェへ入っていく先生を追った。あわよくば、デートみたいな時間が過ごせるんじゃないかと思っていた。
しかし、京子の狙いはすぐに打ち砕かれた。水無月先生の背中に声をかけようとしたとき、彼は誰かに合図を送るように片手をあげたあと、店員を素通りしてさっさと奥へ入っていくのだ。
先約がいるのだとがっかりしつつも、彼が誰と会っているのか興味があって、そのままカフェでお茶することにした。
案内された席は、パーテーションで隔てられてはいたが、先生の隣の席だった。コーヒーを注文する頃には、京子は好奇心でここへ来たことを後悔していた。
席に着く前、京子は先生と同席している女の人の顔を見てしまった。その女の人は、あの看護師さんだった。長い髪をおろしてはいたが、はっきりと整った面立ちに見覚えがあった。
「銀先生、あのお話どうなったの? ほら、入院中に話してくれた」