失くしたあなたの物語、ここにあります
 若い女の人の声が隣から聞こえてくる。彼女は水無月先生を、銀先生と呼んでいるようだ。

「落ちこぼれ魔女の話? だいたいのプロットは立てたんだけどね、どうもしっくり来なくて放置してるよ」
「放置してていいの?」

 マイペースな先生がおかしいのか、彼女は楽しげに笑う。

「頭の中ではずっと考えてるよ。落ちこぼれ魔女には誰か信用できる友だちがいるといいんじゃないかなって悩んだりね」
「落ちこぼれっていうぐらいだから、きっとそそっかしい女の子? それだったら、しっかり者の親友がいてもいいかも」
「落ちこぼれ魔女の親友か。その路線でちょっと考えてみよう」

 先生はすぐに彼女に賛同した。それからふたりは、魔女の親友になる女の子についてアイデアを出し合っていた。

「素直でまじめでかわいい女の子がいいと思うわ」
「思慮深くてね」
「そうそう。魔女ちゃんが自由奔放に突っ走るのをいさめるような」
「でも、消極的な」
「その方がバランス取れて良さそう。消極的なのは慎重ってことだから、危険に出会ったときはその能力を発揮しそう。あ、冒険もののファンタジーですよね?」
「ああ、そうだよ。魔女の国から日本に追放された落ちこぼれ魔女が、魔女の国へ戻るためにさまざまな国に立ち寄って、いろんな体験を通じて成長する話だよ」
「じゃあ、親友は日本の女の子?」
「そうだね。名前は日本名にしよう」

 ふたりは延々と、落ちこぼれ魔女について話し合っていた。看護師さんも全然退屈そうではなく、むしろ、乗り気でさまざまな提案をしていた。
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