失くしたあなたの物語、ここにあります
*
月曜日の早朝、リビングのカーテンの隙間から庭先をのぞき込んでいた沙代子は、門の前に人影を見つけると、あわてて玄関を飛び出した。
「……あれっ? 天草さんっ?」
すっかり、緑のバッグの女の人がまた来たのだと思っていたけれど、門の前でにこにこと手を振るのは天草さんだ。
「おはよう、葵さん。気になって来てみたんだけど、誰も来てないね」
「本当に来てくれたの?」
「うん、早く目が覚めたから」
そう言うけれど、わざわざ早起きして来てくれたのだろう。
「ごめんなさい。あの女の人、誰かわかった気がしてるの。だから、心配いらないって言えばよかったね」
門の扉を開いて、天草さんを招き入れる。
きっと隣のおばさんも気にして見てるだろう。だとすると、道路に出て話していた方が、早朝から男の人と会っているなどという妙なうわさを立てられなくていいだろうか。
沙代子は余計な心配をしながら、結局、彼を玄関ポーチまで誘導した。
天草さんに弱みを見せた夜を思うと今さらだけど、うわさされたら違うときっぱり言えばいい。自分には後ろめたいことなど何もないと思い直したのだ。
「わかった?」
「たぶんだけど、……和久井さんだと思う」
沙代子は小声でそう言った。それこそ違っていたら、うわさの出どころが自分になってしまう。和久井さんに迷惑をかけるのは本意ではなかった。
「和久井さんって、落ちこぼれ魔女を買っていった?」
隣のおばさんが聞いてる可能性を天草さんも気づいてくれたのか、声を抑えめにして、顔を寄せてくる。
日の出間もない時間なのにもかかわらず、彼の表情は爽やかだ。間近に近づいた顔に戸惑いつつも、動揺してる場合じゃないと、沙代子は言う。
「考えれば考えるほど、彼女以外にいないと思って。今日来たら、話がしたいなって思ってたんだけど」
和久井さんじゃないかと疑ったのは、彼女が緑のバッグを持っていたからだけじゃない。沙代子の中ではもう疑いではなく確信に近いものになっている。
「もしかして、来るのが毎週月曜日なのは、司書さんだから?」
月曜日の早朝、リビングのカーテンの隙間から庭先をのぞき込んでいた沙代子は、門の前に人影を見つけると、あわてて玄関を飛び出した。
「……あれっ? 天草さんっ?」
すっかり、緑のバッグの女の人がまた来たのだと思っていたけれど、門の前でにこにこと手を振るのは天草さんだ。
「おはよう、葵さん。気になって来てみたんだけど、誰も来てないね」
「本当に来てくれたの?」
「うん、早く目が覚めたから」
そう言うけれど、わざわざ早起きして来てくれたのだろう。
「ごめんなさい。あの女の人、誰かわかった気がしてるの。だから、心配いらないって言えばよかったね」
門の扉を開いて、天草さんを招き入れる。
きっと隣のおばさんも気にして見てるだろう。だとすると、道路に出て話していた方が、早朝から男の人と会っているなどという妙なうわさを立てられなくていいだろうか。
沙代子は余計な心配をしながら、結局、彼を玄関ポーチまで誘導した。
天草さんに弱みを見せた夜を思うと今さらだけど、うわさされたら違うときっぱり言えばいい。自分には後ろめたいことなど何もないと思い直したのだ。
「わかった?」
「たぶんだけど、……和久井さんだと思う」
沙代子は小声でそう言った。それこそ違っていたら、うわさの出どころが自分になってしまう。和久井さんに迷惑をかけるのは本意ではなかった。
「和久井さんって、落ちこぼれ魔女を買っていった?」
隣のおばさんが聞いてる可能性を天草さんも気づいてくれたのか、声を抑えめにして、顔を寄せてくる。
日の出間もない時間なのにもかかわらず、彼の表情は爽やかだ。間近に近づいた顔に戸惑いつつも、動揺してる場合じゃないと、沙代子は言う。
「考えれば考えるほど、彼女以外にいないと思って。今日来たら、話がしたいなって思ってたんだけど」
和久井さんじゃないかと疑ったのは、彼女が緑のバッグを持っていたからだけじゃない。沙代子の中ではもう疑いではなく確信に近いものになっている。
「もしかして、来るのが毎週月曜日なのは、司書さんだから?」