恋愛日和    after story omnibus

『今から出かけようか。』


コーヒーをコポコポとゆっくり
淹れていた私の元に、今朝原稿を
仕上げて倒れるかのように眠っていた
瀬木さんが大きな欠伸をしてやってきた


昨年末に出版した『巡り会う』で
新人賞を受賞した瀬木さんは、
コラムや、短編小説などの仕事の他に
新しく書き始めた仕事も重なり
年明けから春先までバタバタだった


恋人として出来ることは少なく、
家政婦としては相変わらずの毎日だけど
一緒に住んでいるから、サポートは
しやすいのだ


「瀬木さんもう少し寝てていいよ?」


『今はオフでしょ?』


「あっ‥‥うん‥‥隼人くん。」


顔面偏差値が高すぎる隼人くんが
至近距離で見つめてくるだけで、
今だに顔が熱くなる


高校生の時から、ずば抜けた容姿で、
一瞬で私も心を奪われてしまった1人だ


スウェットだけでは寒そうだったから、
ソファに置いてあったカーディガンを
肩にかけてあげるとそのまま引き寄せられ抱きしめられてしまう


「ふふ‥‥あったかいね‥‥」


『そう?日和の方がフワフワしてて
 あったかいけど?』


背が低い私は隼人君の腕にすっぽり
入ってしまい、いつも胸の位置に頬を
こうして寄せるのがたまらなく好きだ


「出掛けるのはいつでも出来るから、
 今日はお家でゆっくりしよう?」


『‥‥じゃあ映画でも見ようか?』


「うん!まずは何かお腹に入れよう?
 何が食べたい?」


執筆中は珈琲を飲むくらいで、あまり
食欲が沸かないらしく、お腹いっぱい
になると眠くなるから食べたくないって
言うから、食べれる時は食べて欲しい


腕からすり抜けて、キッチンに
行こうとしたら、すぐさま隼人君の
腕の中に舞い戻ってしまった


「隼人君?」


『‥‥日和が食べたい‥‥ダメ?』


ドキッ


背後から抱き締められたまま、耳朶を
甘噛みされると、体がビクッと震える


心臓が皮膚を突き破って出てくるような
鼓動にも、隼人君の体温にも、
どんどん体が熱を帯びていく



『もう何日も触れてない‥‥』


「だって‥‥お仕事の邪魔になるし
 ‥‥ンッ、ち、ちょっと待って‥」


腰に回された両手が裾から忍び込む
手を服の上から咄嗟に押さえると、
今度は首筋を生温い舌が這った
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