片想いに終止符を
4
翌日のお昼休み。
わたしは緊張した面持ちで、桐生くんの席の前で立っている。
花火大会に桐生くんを誘おうと思っているけれど、まずは寝ている桐生くんを起こさなくてはならない。
桐生くんの肩をポンポンと優しく叩く。
「あのー。桐生くん?お話があるので、起きてくれませんか?」
桐生くんは全く起きる気配がない。
しかも、周りから、あの桐生を起こすの?みたいな声が聞こえてわたしは完全に目立っている。
ここまで目立ってしまえばもうヤケだ!
わたしはさっきよりも強く肩を叩き、桐生くんの体をゆさゆさと揺らした。
「桐生くん!起きて!」
すると、桐生くんがいきなりムクっと起き上がった。
「ひゃっ!」
わたしは驚いて後退る。
久しぶりに桐生くんのことを正面から見たけど、相変わらず制服を着崩していて、ピアスもバチバチとついている。
桐生くんは大きく伸びをして、睨むようにわたしを見た。
「で、なんのようだ?」
低い声に一瞬怯む。
さすが不良。
低い声と鋭い目付きが少し怖い。
でも、桐生くんが優しいということを、わたしはよおく知っている。
「ちょっと話したいことがあるので、来て欲しいところがあるんですけど……?」
「……。はぁ。わかった。」
面倒くさそうに桐生くんは立ち上がった。
まさか了承してもらえるとは思っていなくて、驚きのあまり呆然と立ち尽くす。
「なに突っ立てんだ?来て欲しいとこがあんだろ?」
「はい!」
そう言ってわたしたちは廊下に出た。
「あの、三階の空き教室まで一緒に来てもらっていいですか?」
恐る恐る尋ねる。
ここは二階だ。
もしも上に上がるのが面倒だと断られたら、ここで話してしまおうと思った。
「ん。」
素っ気なくとても短い返事が返ってくる。
けれど、怒っている感じはしない。
わたしは、空き教室に向かって歩き出した。
階段を登っている途中。
「なあ。」
と桐生くんに話しかけられ、サッと後ろを向く。
「はい!なんでしょう?」
「さっきから思ってたんだけどよ。お前、なんで敬語なんだ?」
桐生くんが気だるげに聞いてくる。
「それは……緊張して。」
好きな人を前にするだけで緊張するのに、夏祭りに誘うのはもっと緊張する。
そのため、先ほどから敬語になってしまっている。
それを聞いた桐生くんがフッと鼻で笑う。
「お前、もう敬語やめろ。」
「え?」
敬語が変だっただろうか?
少し心配になる。
「緊張してるだけなんだろ?なら、敬語使われんの好きじゃねーから、もう使うな。」
変な敬語ではなかったことにホッとする。
「わ、わかった。」
「それでいい。」
満足そうに微笑む桐生くんを見て、心臓がドキッと音を立てる。
一年前と変わらない素敵な笑顔に、わたしはまた目を奪われる。
「ん?なんか顔についてるか?」
「つ、ついてないよ!」
目を逸らし、慌てて前を向く。
ずっと見ていたことに気恥ずかしさを覚える。
気を取り直して階段を登り、空き教室へと向かった。