片想いに終止符を
5
空き教室は冷房が効いていて、とても涼しい。
この空き教室は放課後になると学習スペースとして解放されている。
お昼の間も休憩スペースとして利用出来る。
けれど、お昼に利用する人は滅多にいないため、二人きりで話すにはちょうどいい場所。
「で?話ってなんだ?」
緊張でドキドキとうるさい心臓を落ち着けるために、ゆっくり深呼吸をする。
少し落ち着いたところでわたしは口を開いた。
「桐生くん。今週の土曜日、神社でやる花火大会に一緒に行かない?」
「は?」
桐生くんは怪訝そうな顔を浮かべる。
なにか変なことを言ってしまっただろうか?
……いや変なことは言っていない。
だって花火大会に誘っただけ……。
そこまで考えてわたしはハッとする。
桐生くんの反応は至極当然のことだった。
だって、初対面同然のクラスメイトにいきなり、花火大会に行こうと言われたら困惑するに決まっているのだから。
わたしの中では桐生くんの存在はとても大きい。
だから、花火大会くらいならいいかな〜なんて思っていた。
でも、桐生くんからしたらわたしはただのクラスメイト。
もしかしたら、名前すら知らない可能性もある。
「い、いきなりこんなこと言ってごめん!」
慌てて頭を下げる。
「別に怒ってねーから顔上げろ。」
そう言われ、下げていた頭を上げる。
「なんで俺なんだ?柊と仲いい早乙女と行かねーのか?」
椿ちゃんの名前が上がってびっくりする。
わたしが仲の良い子を知っていたのも嬉しかったけれど、わたしの名前を知っていたことも嬉しかった。
わたしをクラスメイトとしてちょっとだけ知っていてくれたことに、喜びを隠せない。
思わずニヤけそうになってしまいそうになるが、何とか抑える。
「柊?」
思わずボーッとしてしまい声を掛けられる。
「ご、ごめん!桐生くんを誘った理由だよね。それは…。」
「桐生くんと仲良くなりたかったから。」
思わず好きだからと言いそうになった。
でも、恥ずかしさの方が勝って、好きという言葉が口から出てくることは無かった。
「俺と?」
桐生くんが、なんで?という顔をする。
「桐生くんは覚えてないかもしれないけど、一年生の時に電車で、桐生くんに助けてもらったことがあったの。それから、ずっと話してみたいな〜って思ってたんだ。」
ニッコリと微笑むと桐生くんに顔を逸らされる。
怖い笑顔をしたつもりは無いけれど、もしかしたら変な顔に見られたのかもしれない。
「変な笑顔浮かべちゃってごめんね。」
「変どころか、かわい……。」
小声でよく聞き取れなかった。
「今、なにか言った……?」
「なんでもねー。」
そう言って桐生くんはそっぽを向く。
心なしか耳がほんのり赤くなっている気がした。
「で、三日後の夏祭りだったな。」
コクコクと頷くと、桐生くんはフッと微笑んだ。
「行ってやるよ。夏祭り。」
嬉しくて、思わず桐生くんの両手を掴む。
「ほんと!?花火も一緒に見てくれる?」
「ああ。いいぜ。」
「ありがとう!!」
最初は、ダメかと思ったけれど、了承してもらえてよかった!
「神社集合でいいか?」
「もちろん!」
「じゃあ、三日後な。」
「うん!」
桐生くんの手を掴んだまま、わたしは元気よく頷くのだった。