双子王子の継母になりまして~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~2
突然変わった話題に私は慌てる。珍しく、ロベールとマルセルも私のドレスに興味を示した。
「ドレス? 母上の?」
「わあ、なにいろですか?」
動揺しながらも説明する。
「えっ、えっと、青です」
実を言うと、最初に候補に上がったのは赤だった。
お針子たちやその場にいた使用人は全員似合うと言ってくれたのだが、黒髪と相俟って悪女っぽく見える気がして躊躇った。結果、赤も仕立てつつ、パーティに着ていくのはルイゾン様の瞳によく似た深い青に落ち着いた。そのこと自体は大満足なのだが。
――青ばかりだと思われないかしら。
以前、お茶会に行く時に作ったドレスも青だったのだ。
だが、私の懸念をよそにルイゾン様は満足そうな笑顔を見せる。
「うん、青はいいな。ジュリアの白い肌によく似合う」
「母上が青なら、わたしも青がいいです!」
「わたしもです!」
ルイゾン様がすかさず言う。
「それなら私も青にしようかな」
「父上はダメです!」
「ほかのいろにしてください!」
「なぜだ?」
ルイゾン様の戸惑う様子がおもしろくて、私とロベールとマルセルは声を合わせて笑った。
楽しいおやつの時間が終わった後は、私とルイゾン様はそれぞれ自分の執務室に、ロベールとマルセルはお昼寝のために子ども部屋に戻ることになっている。
「今日は私がふたりを子ども部屋まで送っていこう。そちらについでがあるんだ」
「まあ、そうなんですね。それではお願いします」
ロベールとマルセルも嬉しそうだ。
「父上といっしょですか!」
「わたし、父上のとなりをあるきます!」
「わたしだって!」
ふたりはルイゾン様の両隣に立って、楽しそうに歩いていった。
三人の背中を見送りながら、私はなんとなく寂しい気持ちでいることに気付いた。
――いけない、いけない。まださっきのことを引きずっているのかしら。
私の誕生パーティはともかく、皆の誕生パーティはしっかりと祝わなくては。
大事なのはそこだ。
フロランスに、去年の春のパーティの様子を聞こうと思いながら、私も自分の執務室に戻った。
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「へ、陛下!? 恐れ入ります!」
ルイゾンが王子たちと子ども部屋に戻ってきたので、メイドのラナは慌てて頭を下げた。ルイゾンは大らかな様子で笑う。
「いや、構わない。しばらくいるから、呼ぶまで下がっていてくれ」
「かしこまりました」
ラナは言われた通り部屋を出た。やり取りを聞いていたロベールとマルセルが、頬を紅潮させる。
「父上もいっしょにおひるねですか?」
「わたしのまくら、かしてあげます!」
枕を貸すどころか投げて遊び出しそうな息子たちに、ルイゾンは目を細めて言った。
「枕はいらないが、ふたりがちゃんとベッドで横になれるかは見たいな」
「はい!」
「わかりました!」
息子たちは素直に、きゃっきゃと声をあげながらベッドに横になる。
「お昼寝の前に、男同士の秘密の話があるんだが、いいかな?」
ルイゾンはベッドの端に座って切り出した。ふたりは仰向けになった体勢で不思議そうに言う。
「おとこどうし?」
「ひみつですか?」
ルイゾンは人差し指を立てて、自分の唇の前に置いた。
「ああ、誰にも言わないでほしい。母上にもだ」
ロベールが腑に落ちない様子で聞き返す。
「母上にもないしょですか? どうしてですか?」
「驚かせたいからだよ。できるかな?」
マルセルが声を潜めた。
「……たんじょうびのことですか?」
なかなか勘がいい。ルイゾンは頷く。
「そうだ。母上は遠慮するからね」
ロベールが飛び起きそうな勢いで言った。
「わかりました! わたし、ひみつまもります!」
マルセルも鼻息荒く付け加える。
「わたしだってまもります!」
「よし、それでは、ふたりにやってもらいたいことがある」
「なんですか?」
「それは――」
ぐっすりと眠ったふたりを眺めながら、ルイゾンはベッドから体を起こした。
寝顔を見ているうちに自分まで眠りそうになったが、なんとかこらえる。
「……レスターが怒り狂っていなければ、まだまだ一緒にいるんだが」
起き上がって廊下に出たルイゾンは、欠伸を噛み殺してラナを呼んだ。
「あとは頼むよ」
「かしこまりました」
レスターへの言い訳を考えながら、ルイゾンは自分の執務室に戻る。
男同士の秘密を胸に抱いて。