双子王子の継母になりまして~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~2
遮られて顔を上げると、ルイゾン様の青い瞳がそこにあった。
「私の知る限り、普段のジュリアはこんなにわかりやすくない。ちゃんと使い分けている。だから大丈夫だ」
「え……でも」
「私の前だけなんだろう?」
「はい。それはそうですが……そもそも、黒髪のせいで初対面の人があまり近寄ってこないのも大きいですし」
やはりなんとかするべきではないかと思案する私に、ルイゾン様は力強く言った。
「いや、今まで通りでいい。さっきも言ったが、そこまで読めるのは私くらいだ。私の前でだけわかりやすくいてくれ」
「本当に、よろしいんですか?」
ルイゾン様はしみじみと呟く。
「ああ。ジュリアの負担を増やしたくないし、私にとってジュリアのわかりやすさは癒しだからな」
――癒し。
そんな風に言ってもらえるとは思っていなかったので、驚いた心臓が突然激しく動き出した。鼓動の速さを隠すように、私は慌てて頭を下げる。
「それではお言葉に甘えます」
「存分に甘えてくれ」
「……は、はい」
小さな声で返事をした私は、頬が赤くなってもごまかせるように、再びカップに口をつけた。ルイゾン様も穏やかな様子で、ご自分のホットワインを味わっている。
「うん。林檎の香りがいい」
よほどお気に召したのか、そう言って微笑んだ。
太陽のような金髪に、晴れ渡った空のような青い瞳。
精悍でありながら、大人の色気も漂っているその横顔を盗み見ながら、私は小さく息を吐く。魅力の塊のようなこの人が自分の夫であることが、今でも時折信じられない。
――最初にお話をうかがった時も、なにかの間違いかと思って確かめたものね。
家族にも悪魔と呼ばれて虐げられていた私が王妃だなんて、世の中なにが起こるか本当にわからない。
黒髪の特殊能力として『予知』が使える上に、膨大な魔力がある私だったが、ルイゾン様と出会うまではほとんどの人にそれを隠して生きていた。
金髪と違い、黒髪は忌み嫌われる存在だったから。
――だからこそ余計に、初めてふたりきりで話をした時のルイゾン様の言葉が忘れられない。
この国で最も高貴な、誰もが羨む髪色の持ち主が、決意を秘めた目でこう言ったのだ。
『観察眼なんて能力を持っていると、髪色がいかに人の資質と関係ないかわかるんだよ』
その声に迷いはなかった。
『だから、髪色に関係ない制度をどんどん作っていこうと思っている。そして、最終的にはそれを王子たちの即位に繋げる――その礎を作るのが、観察眼を与えられた私の宿命だと思っているからだ』
さらさらとした美しい銀髪を持つロベールとマルセルだが、不思議なことに生まれた瞬間は金髪だったらしい。出産に立ち会った宮廷侍医の目の前で銀髪に変化していったそうだ。
生母であるシャルロット様が出産で亡くなったことや、双子は不幸を呼ぶという迷信があったこと、この国で唯一の銀髪であることなどから、ロベールとマルセルのお世話係はなかなか定着しなかった。
ルイゾン様は精いっぱい手を尽くしたが、やはり多忙の身。ひとりでは限界がある。
そこで『王族の金髪』の特殊能力、観察眼を駆使して、私を王子たちの継母に指名したのだ。
王妃としてはお飾りでいいと言われたが、魔草の研究に励む私に専用の温室まで与えてくださったルイゾン様のために、なによりロベールとマルセルのために、できることならなんでもしたいと思っている。
――だけどまずは足を引っ張らないようにしなくては。
私はどんな光も吸い込んでしまうような真っ黒な自分の髪を見下ろした。
「そうだ、ジュリア」
ルイゾン様がカップをサイドテーブルに置いて、思い出したように言う。
「王子たちのお披露目パーティのことなんだが、来月に決まったよ」
「まあ、いよいよですね」
『橋渡りの儀式』を無事に済ませたことからそろそろだと思っていたが、やはり具体的になると胸が高鳴る。
「ロベールとマルセルなら大丈夫です。きっと立派にやり遂げますわ」
最近、ふたりがマナーのレッスンを始めた理由のひとつはそれだった。王太子候補として、貴族たちの前に姿を見せる時のために準備していたのだ。
私は瞬時に、ロベールとマルセルの王子として正装を考える。
――伝統として決められたデザインはあるのかしら。衣裳合わせに立ち会えるのなら、色違いやデザイン違いをたくさん着てもらいたいけれど、時間がかかりすぎると疲れさせてしまうわ。生地の段階できっちり決めておかなくちゃ。布選びであれこれ迷うくらいは許されるかしら?
「楽しそうだね」
「あ、はい。つい。王子たちの衣裳に考えを巡らせていました」
「それは助かる。ぜひ、君の意見を反映させてくれ」
「いいんですか?」
「もちろんだ」
――最高だわ……。
うっとりする私にルイゾン様は当たり前のように付け足した。
「ジュリアのドレス姿も楽しみだ」
「私ですか?」