双子王子の継母になりまして~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~2

「ああ、周辺国の王族にも声をかけている。その時に、君のこともきちんと皆に紹介するつもりだから、そのつもりでいてくれ」

 ――えっ?

「周辺国? 国内の貴族だけじゃないんですか?」

「ああ」

「……大丈夫でしょうか、私で」

「どういう意味だ?」

「あ、いえ、なんでもありません。頑張りますわ」

 慌てて取り繕ったが、遅かった。

 ルイゾン様はなにもかも見透かしたような瞳を私に向ける。

「ジュリア、君はれっきとした私の妻で、あの子たちの母親で、王妃だ」

 その言葉が気休めではないことが、表情から伝わる。

 ――そうだ、これも王妃として大事な役割よ。

「失礼しました。王妃として精いっぱい努めさせていただきます」

 私は切り替えるように、周辺国の名前を口にした。

「では、コーズ王国とリュムール王国、クラリエ王国からお客様がいらっしゃるのですね」

 ルイゾン様が治めるこの国は、四方を山に囲まれている。

 北と東はコーズ王国、西はリュムール王国、南はクラリエ王国に接しているのだが、魔獣が出る険しい山に阻まれて、交流はそれほど活発ではない。

「私、どの国の方もお会いするのは初めてです」

 ルイゾン様は私の緊張を和らげるように微笑んだ。

「そんなに構えなくて大丈夫だ。コーズとリュムールは欠席すると返事があった」

「そうなのですか?」

「ああ。冬が厳しいコーズはこれからの季節、移動はなかなか難しい。リュムールも皇太后が亡くなった服喪期間だから遠慮するとのことだ」

「じゃあクラリエ王国だけなのですね」

「ああ、クラリエからは、国王夫妻と王太子は行けないが、王女と王弟とその娘が来るとの返事があった。ジュリアには彼らの相手も頼むことになる」

「承知しました。王女様と王弟殿下、そのご令嬢ですね。お嬢様方は、おいくつくらいでしょうか」

「王女はついこの間デビュタントしたと聞いた。王弟令嬢は、ロベールとマルセルの少し上かな」

 ――ロベールとマルセルと年が近いご令嬢! お友だちになってもらえるかしら。

 王子たちとご令嬢が遊ぶところを想像した私は、それだけでパーティが楽しみになった。我ながら単純だと思いながら、弾んだ声で続ける。

「王弟妃殿下はいらっしゃらないんですか?」

 公務でもあるのかと思ったのだが、返ってきた答えは意外なものだった。

「王弟妃はいないんだ。ご令嬢が三歳の時に事故で亡くなったと聞いている」

「まあ……それは……存じ上げなくて申し訳ありません」

 自分の不勉強を恥じると同時に、胸の痛みを感じた。

 ――三歳のお嬢様を置いて亡くなる。

 今の私ならそれがどれほどつらいことか、わかる気がしたのだ。
「ご令嬢にとって少しでも楽しい滞在になるように頑張りますわ」

「助かるよ」

「王弟殿下は再婚しないのでしょうか?」

 私と再婚する前のルイゾン様がそうだったように、クラリエ王国の王弟殿下のところにもたくさん縁談が来ていることは予想に難くない。いまだにおひとりということはなにか事情があるのかと思って尋ねたら、ルイゾン様は苦々しい口調で答えた。

「再婚する予定はないそうだが、候補は何人もいると聞いている」

「予定がないのに?」

「そういう不誠実なところがあるんだ。アルフォンスは。私より少し年上なんだが、結婚前から浮き名を流すことが多い奴だった。いつまでもフラフラせず忘れ形見のご令嬢を大切にしてほしいものだよ」

「王弟殿下はアルフォンス様とおっしゃるのですね」

 ルイゾン様は気を取り直したように頷く。

「ああ、王女はセレスティーナ、令嬢はエミリエンヌだったな」

「セレスティーナ様に、エミリエンヌ様……女の子ってやはりかわいいんでしょうね」

 私はまだ見ぬ令嬢たちを想像した。

「おもてなしについてはフロランスと相談しますね」

 ベテランの女官長であるフロランスの力を借りればなんとかなる気がしてきた。

 フロランスの名前で思い出したのか、ルイゾン様が話題を変える。

「そういえば、侍女頭は決まりそうか? 候補者が殺到していると聞いたが」

「そうなんですが、なにしろ数が多くて……」

 私は言葉を濁した。ルイゾン様もそれ以上は踏み込まない。

「まあ、そっちはゆっくりでいい。無理しないように」

「ありがとうございます。決まったら真っ先に報告します」

 ホットワインのせいか、いつもよりも早く眠気を感じながら私は答える。

 ルイゾン様がまた先回りするように笑った。

「そろそろ寝ようか」

「はい……」

 私はありがたく頷いた。



 寝る準備を終えた私とルイゾン様は、結婚初日と変わらず、ベッドの端と端に横になった。

「ジュリア、魔力は大丈夫か」

 眠る前にそう聞いてくれるのも、いつの間にかできた新しい習慣だ。

 魔草に魔力を吸わせることを忘れると、魔力過多になって悪夢と予知を見てしまうのだ。

 私の予知は、夢の形で現れるのだが皮肉にも、その前に必ず悪夢を見ることでそれが予知だとわかる。

 幼い頃はいちいち混乱していたが、魔草に魔力を吸わせると悪夢も予知も見ないことに気付いてからは、なんとか制御できるようになった。

 予知を繰り返すとかなり疲れる上に、現実と夢の境目がつかなくなりそうになる。そのことをルイゾン様に伝えたら、毎晩確認してくれるようになった。

「はい。大丈夫です」

 おかげで、最近はすっかり悪夢を見ないようになっている。

「よし、じゃあ、寝よう。おやすみ、ジュリア」

「おやすみなさいませ、ルイゾン様」

 ルイゾン様の近くで眠れる幸せを感じながら、私は瞼を閉じた。

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