双子王子の継母になりまして~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~2
――同じ頃。
「は? 私が?」
クラリエ王国の宮殿の一室で、アルフォンスは形のいい眉をしかめて聞き返した。クラリエ王国特有の、濃い金髪がさらりと揺れる。
「ルイゾンの息子のお披露目パーティにわざわざ出席しろと言うんですか?」
「ああ。先方にはもう返事はしてある」
兄であり国王のナゼールは、強い酒の入ったグラスを持ち上げて頷いた。
ソファの向かい側に座ったアルフォンスは自分もグラスを傾けながら、一応抗議する。
「返事って……兄上、あまりにも一方的ではありませんか」
国王の命令は絶対だとわかっているが、なんでも素直に受け入れると思われるのは気に入らなかった。
ナゼールは、アルフォンスの不満など意に介さない調子で続ける。
「うちのキュールが王太子になった時は、向こうが来たから仕方ない。今度はこちらが行く番だ」
ナゼールのひとり息子キュールは、十年前、八歳で王太子になった。当時はルイゾン含め、他国の賓客が大勢訪れたのだが、アルフォンスは反論する。
「それはそうかもしれませんが、私にだって予定くらいあります」
「どうせ遊びの予定だろう」
アルフォンスは心外だと言わんばかりに片眉を上げた。
「私が社交に励んでいるのは兄上のためだと理解してくださっていると思っていましたよ」
『遊び人の王弟殿下』を装って、国内の有力な貴族のご夫人たちからいろんな情報を入手しているのだ。確かに、必要以上にご夫人たちと過ごすことが多いのは認めるが。
ナゼールは、すべてを見抜いたかのように言い放つ。
「これも社交だ。よかったな」
アルフォンスは仕方なく、ご夫人やご令嬢と約束していたいくつかの夜会や音楽会を諦める。
「わかりましたよ……まったくルイゾンがそんな親馬鹿だったなんて知りませんでした。たかが息子ひとりのために他国まで招待するなんて」
「ひとりじゃない。ふたりだ」
「ふたり?」
「先妻との間にできた子どもは双子だったようだ。正確には王太子候補としてそのふたりをお披露目するからと、招待状が来た」
アルフォンスは意外に思って聞き返した。
「双子だったんですか」
出産で王妃が亡くなったと聞いて以来噂にも上らなかったので、てっきりひとりだけだと思っていたのだ。ナゼールは頷く。
「双子は不吉だという迷信があるそうだから、伏せていたのかもしれんな」
なるほど、とアルフォンスは酒を飲みながら納得した。髪色で地位を決めるくらい独特の文化がある国だ。不吉な双子が生まれたなら、ある程度成長するまで周囲に隠蔽くらいするだろう。
同じように酒を飲んでいたナゼールが、思い出したように付け足した。
「そういえば、再婚もしたようだ」
「再婚? 誰がです?」
「もちろん国王だ」
アルフォンスは目を見開く。
「あのルイゾンが再婚したんですか?」
意外だった。ルイゾンとは何度か顔を合わせたことがあったが、女性に関しては真面目な印象だったのだ。
「ああ。大した家柄の女性でもないのに、国王が強引に結婚を決めたらしい。悪女とか悪魔とか呼ばれているそうだから、小悪魔的な魅力があるのかもしれんな」
「へえ」
アルフォンスの脳裏に妖艶な美女が浮かんだ。ルイゾンを手玉に取った女性に俄然興味を抱く。
「それはおもしろいですね。あの堅物ルイゾンがそこまで入れ込むなんて。聖人君子みたいな顔をして、やはり普通の男だったんですね」
「まあ、そういうことだろう」
「兄上は気になりませんか? おっと、義姉上に怒られますね」
アルフォンスは、兄より縦にも横にも大きい義姉を思い浮かべてからかった。ナゼールは澄ました顔で話を逸らす。
「いずれにせよその双子が成長したら、エミリエンヌやセレスティーナの結婚相手になる可能性が高い。様子を見ておいて悪いことはないだろう」
「そこまで考えているのなら、兄上が行けばいいでしょう」
「私がわざわざ行くほどではないだろう。関所まで遠いのもいただけない」
要するに面倒くさいのだ。
――まあ、たまにはエミリエンヌと旅行もいいかもしれない。
アルフォンスは普段寂しい思いをさせているひとり娘を思い出して、念を押す。
「旅の費用はたっぷりいただきますよ」
ナゼールは鷹揚に頷いた。
「好きにしろ」
「さすが兄上」
意外と悪くない旅かもしれないと、アルフォンスはグラスに残った酒を飲み干した。
――悪女と火遊びを楽しむのもおもしろそうだ。
そんなことを考えながら。