双子王子の継母になりまして~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~2

1、ルイゾン様の存在は大きいですね


 ルイゾン様がロベールとマルセルにお披露目パーティのことを告げたのは、翌日の朝食の席だった。
 
 ロベールとマルセルは、今日もお揃いの襟付きのシャツと半ズボン姿だ。どんなに勧めても長ズボンを嫌がるので、この季節は長靴下を絶対に履いてもらうことで妥協している。

「おとなりのくにのおきゃくさまもくるパーティ……」

「わたしたちのおひろめパーティ……」

 ロベールとマルセルは、ルイゾン様によく似た青い瞳でお互いを見つめた。

 前髪は眉の上で切り揃えられているので、それぞれの戸惑いを含んだ眼差しがよくわかる。

 ふたりともパンをちぎる手を止めて、礼儀正しく私とルイゾン様に向き直った。

「わたし、どきどきします」

「わたしもです」

 ――習ったマナーを早速活かしているわ! なんてえらいの!

 見ているだけで悶えそうになったが、ふたりは真剣なのだ。

 私はなんとか理性を保って微笑みかける。

「緊張しますね。でも、きちんと準備していたら大丈夫ですよ。今日から魔法の訓練の時間を少し削って、マナーとしきたりの勉強の時間に当てましょう」

 いつものように、すぐにはいと返事するかと思いきや、意外にもふたりは難色を示した。

「えー」

「いやだなあ……」

「珍しい。どうしたんだ?」

 ルイゾン様が尋ねると、ロベールが訴えるように答える。

「母上といるじかん、すくなくなるんでしょう?」

 マルセルも頷いた。

「さみしいです」

「ロベール……マルセル……」

 午前か午後の空いた時間に私が魔法を教えているのだが、その時間が減るのが寂しいとふたりは言っているのだ。

 ――そんなこと言われたら、私だって寂しくなるわ!

 かわいさと愛しさで爆発しそうになるのに耐えながら宥める。

「おやつの時間は今まで通り一緒ですよ。そうだ、おやつを食べながら、その日どんなことをしたか教えてください」

「おやつ……」

「おしえるの?」

 私は頷いた。

「ええ。母上もその時間を楽しみに執務を頑張ります」

 ルイゾン様も穏やかな声で背中を押す。

「そういうわけだ。ふたりとも頑張れ」

「わかりました」

「がんばります」

 納得したように返事をしたふたりは、再びお互いの視線を合わせた。きらきらした青い瞳がそれぞれを映す。

「わたし、すっごくがんばります。ロベールより」

「わたしだってがんばります。マルセルより」

 負けん気を出して張り合う様子が頼もしくもかわいらしい。

「わたしのほうががんばるぞ」

「わたしだ」

 ――どちらもすごく頑張り屋さんよ!

 私は内心でふたりを激しく応援した。

 ルイゾン様もそんなふたりを微笑ましく思ったのか、珍しい提案を口にする。

「もし、時間が作れたら私もお邪魔しよう」

 ふたりは目を丸くした。私も驚いたくらいだから無理もない。

「父上も?」

「いっしょにおやつですか?」

 ルイゾン様は朗らかに笑う。

「ああ。すぐには無理だが、レスターに都合をつけるように言っておく」

 文官のレスターは、ルイゾン様の右腕だ。濃い茶髪を前髪からぴったりと後ろに撫でつけて、眼鏡をいつも光らせている。ロベールとマルセルが王太子候補になって以来、頻繁に顔を合わせるようになった。

 そうやって少しずつ王太子としての自覚を促していくのだろう。だんだんと子どもでなくなっていくのだ。

 ――当たり前のことだけど、寂しいわね。

 もしかして、ルイゾン様も同じように思っているのかもしれない。それで急にこんなことを言い出したのではないだろうか。

「レスターはつごうつけてくれますか?」

 私の感傷などつゆ知らず、ロベールが期待のこもった瞳で言う。

「ああ、きっと」

 ルイゾン様の言葉に、マルセルがはしゃいだ声を出した。

「やったあ」

 ロベールも頷く。

「たのしみです!」

 私はこっそりとルイゾン様に耳打ちする。

「いいんですか?」

 お披露目パーティの時間を作るために、ルイゾン様も執務が立て込んでいるはずなのだ。ルイゾン様はお茶を飲みながら優雅に答えた。

「こうでも言わないとレスターは私に、次から次へと書類を持ってくるんだ」

「それは当然なのでは……」

 ルイゾン様は片目をつむる。

「私にも息抜きが必要だろう?」

「そうですね」

 私はあっさりと心配を引っ込めた。私だってルイゾン様と一緒におやつを食べたい。

 ――想像するだけでわくわくするわ。

 王子たちの食事係であるジャネットは、張り切ってお菓子を準備するだろう。お天気なら外で食べてもいいかもしれない。風が冷たいようなら、部屋で温かいショコラを飲むのも悪くない。

 いつも三人で食べているおやつが、ルイゾン様が参加するだけでちょっとした楽しみに様変わりする。

「ルイゾン様の存在は大きいですね」

 私はしみじみ呟いて、お茶を飲み干した。

「え?」

 ルイゾン様は思案するように私を見つめたが、やがてひとりで納得したように頷く。

「いや、うん、大丈夫だ。だいたい想像ついた」

「なにかお急ぎの案件でも思い出しましたか?」

 ルイゾン様は首を横に振った。

「そうじゃない」

「それならいいのですが」

 ロベールとマルセルが不思議そうに尋ねる。

「父上、どうしました?」

「かたまっていました」

「そんなことないさ」

 三人が会話している様子を私は微笑ましく眺める。

 窓から差し込む朝の光が、ルイゾン様たちをキラキラと縁取っていた。




 朝食後、ルイゾン様はひと足先に宮廷に向かった。

「では、行ってくるよ」

 食堂から出ていく背中を、ロベールとマルセルと一緒に見送る。

「いってらっしゃいませ」

 私の後に続くように、ふたりも声を出す。

「父上、いってらっしゃいませ!」

「おしごと、がんばってください!」

 ルイゾン様は頷いて、廊下をスタスタと歩いていった。

「いっちゃった」

「きゅうてい、いっちゃったね」

 ふたりは残念そうに呟く。

 宮廷が、ルイゾン様の執務をこなしたりお客様をもてなしたりする場所で、一度行ってしまうと、なかなか戻らないことを知っているのだ。

 今いる離宮は私と王子たちの生活の場で、別名王妃の宮殿と呼ばれている。

 王子たちは私が継母になるまで、王子宮と呼ばれる不便で小さな離宮で生活していたが、私からルイゾン様にお願いしてこの離宮に引越してもらった。一緒にいる時間を増やしたかったのだ。

 ちなみに、本宮殿、または王の宮殿と呼ばれているルイゾン様の私的な場もあるが。私の知る限り、ルイゾン様はほとんどそこには足を運ばず、宮廷とこの離宮を往復している。

「さあ、ロベールとマルセルも行きましょうか」
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