双子王子の継母になりまして~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~2
フロランスは背筋を伸ばして答えた。
「承知しました。ではそのように手配します」
「お願いね。ほかに急ぎの案件はなかったかしら?」
「お披露目パーティのドレスの採寸がございます」
「そうか、今日だったわ」
これはレッスンをこっそり見学に行けなさそうだ。
「早く侍女頭を決めないとフロランスの忙しさも減らないわね」
フロランスはもともと本宮殿と宮廷を繋ぐ女官長なのだ。私の用事ばかりしてもらうわけにはいかない。
「お気遣いありがとうございます。ですが、どうぞご遠慮なくお申しつけください」
フロランスはピシリとした背筋から一礼して、部屋を出ていった。
――カッコいいわ。
思わず目で追ってしまったが、私も王妃としてあれ以上の威厳を持って然るべきなのだ。見惚れている場合ではない。
「できるかしら」
不安に思った私は、壁にかけてある鏡の前に移動した。
誰もいないのをいいことに、こっそり怖い顔を作ってみる。
角度を変えて眉を上げたり下げたり、口角だけを動かして笑顔を作ったり。
だが、どれもイマイチだった。
「ダメだわ。ただでさえ黒髪黒目のせいでキツく見えるのに、なにか企んでそうに見える……むしろ悪女っぽいんじゃないかしら?」
威厳にはほど遠い。
私はため息をついて、執務机に戻った。
そして、午後。
ドレスの採寸が長引いたせいで、ふたりのレッスンを覗き見……見学に行けなかったのだが、おやつの時間は予定通り一緒に過ごすことができた。
曇っていたので、外ではなく離宮のサロンでいただくことになる。
「母上、おつかれさまです!」
「母上、ここどうぞ!」
ロベールとマルセルが並んで座っている向かい側に腰かけて、私は微笑んだ。
「ありがとう。ロベール、マルセル」
ふたりとも、わくわくしながらもきちんと膝を揃えて待っている。
「今日はなにかな」
「パンケーキもまたたべたいねえ。わたし、あれだいすきです」
「ショコラでもいいねえ」
だけど、ひそひそと交わされる会話は声も内容もあどけなく、私は内心悶えずにはいられない。
――かわいい! かわいすぎる! かわいいふたりが美味しいおやつを楽しみにしているわ!
「母上はなんだとおもいますか?」
ロベールに尋ねられ、ちょっと首を傾げる。
「温かいお菓子じゃないかしら?」
ふたりともその答えに目を輝かせた。
「きっとそうです!」
「わたしもそうおもいます!」
「ふふふ。どうかしら」
三人で予想しながら待っていたら、メイドが一客多く、カップをテーブルに置いた。
あら、と思うと同時に、サロンの扉が開く。
「待たせたかな?」
ルイゾン様が早速、顔を出したのだ。
「ルイゾン様!」
「わあ! 父上!」
「父上もごいっしょできるんですね!」
私たちははしゃいだ笑顔で迎え入れる。
ルイゾン様は笑いながら、私の隣に腰かけた。
「三人だけ美味しいものを食べているのが羨ましくなってな」
ロベールとマルセルは嬉しそうに答える。
「とってもおいしいですよ!」
「まだなにかわからないけどおいしいです!」
私もからかうように言った。
「レスターがよく送り出してくれましたね」
ルイゾン様はさっきとは違う含みのある笑顔を作る。
「ああ。快くどうぞと言ってくれたよ」
――怪しいわ。
ルイゾン様の代わりにいくつかの書類を処理しているであろうレスターを心の中でねぎらいながらも、私は賑やかなおやつの時間を楽しむことにした。
メイドがお茶を淹れ終わると同時に、ジャネットが湯気の立つお皿をテーブルに置いた。
「本日は、ビューニュという揚げ菓子をご用意しました。ナイフで切り分けて召し上がってください」
ロベールとマルセルが驚いた声を出す。
「ビューニュ、わたし、はじめてです!」
「わたしもです!」
私も初めてだった。
四角い揚げパンのようなビューニュは、粉砂糖が雪のようにかかっていた。
「いただきます」
ナイフを入れると、サクッとした外側の生地がホロリと崩れる。中にはカスタードクリームが入っていて、疲れが取れる甘いおやつだった。
「美味しいですね」
思わず言うと、ロベールとマルセルも頷いた。
「すごくおいしいです!」
「わたしもおいしいです!」
レッスンを頑張ったふたりにはちょうどいいだろう。さすがジャネットだ。
ルイゾン様は私たちのように大騒ぎはしなかったが、満足そうに目を細めている。お気に召したようだ。
あっという間に食べ終わり、その後は二杯目のお茶を飲みながらおしゃべりをした。
「ふたりとも今日はどうだった?」
ルイゾン様の問いかけに、ロベールとマルセルが胸を張る。