双子王子の継母になりまして~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~2
「きょうもがんばりました」
「ガルニスせんせいがほめてくれました」
「そうか、よかった」
「ガルニス先生は褒めることを惜しみませんものね。ふたりがやる気を出すのもわかります」
私は柔和な微笑みを思い出して言ったが、ルイゾン様は首を捻った。
「私には厳しかったが……歳を取ったのかな」
ロベールとマルセルが不思議そうな顔をする。
「ガルニスせんせい、こわくないですよ。ゆっくりおしえてくれます」
「わからなかったらいつでも聞きなさいって、いってくれました」
「それはいいな。私の頃もそうだったらなおよかった」
私は笑ってから、ふと呟いた。
「私もガルニス先生に、もう一度教わりたい気分ですわ」
お披露目パーティに向けて、やはり緊張しているのだ。
「なに、最初は誰でも緊張するさ」
ロベールとマルセルがすかさず問いかける。
「母上もきんちょうしますか?」
「おとななのに?」
私は正直な気持ちを口にした。
「そうね。ちょっとドキドキしているわ」
「わたし、おうえんしています」
「わたしもです!」
私は胸を熱くして答えた。
「ありがとう。そうね、ふたりも頑張っているんだから、母上も頑張るわ!」
「そんなに緊張しなくて大丈夫だ」
ルイゾン様が私を優しく見つめる。
「ガルニス先生からも、ジュリアは土台ができていたからそんなに教えることはなかったと聞いている」
自分ではそこまで完璧に思えない私は、小さく首を横に振った。
「だとしたら、幼い頃にグラシア先生に基礎を教わっていたおかげですわ。その後はほとんど独学なので自信がないんです」
「グラシア女史か。今はプルス帝国にいるとか」
「はい。頑張っていらっしゃると思いますわ」
六歳年上のグラシア先生は、異母妹カトリーヌの家庭教師だった。数少ない、私を髪色で判断しなかった人のひとりだ。
だが、私にもこっそり勉強を教えていたとお義母様に知られたことで、辞めさせられてしまった。責任を感じる私にグラシア先生はどこまでも優しく、ひっそりと手紙のやり取りを続けてくれた。
我が家を辞めた後もいろんなお屋敷で家庭教師を続けていたが、私がルイゾン様と結婚した少し後に、プルス帝国に留学した。
大陸で一番力を持っているという噂のプルス帝国は、教育に力を入れており、優秀であれば出身を問わず大学に入れる。クラリエ王国を挟んでいるので我が国とは距離があるが、それなりに友好的な関係を保っていた。入学試験を通ったグラシア先生は、特に優秀な生徒だけがもらえる奨学金を手に入れ、魔法学の研究に専念している。
「グラシア先生が侍女頭になってくださったら、本当に心強かったんですけど」
グラシア先生の活躍を心から応援しながらもつい、そんなことを言ってしまう。
「そうだな」
ルイゾン様は頷いてから、思い出したように付け加える。
「年が明けたら、ロベールとマルセルの誕生パーティを開く予定だ。そっちが先なら、予行練習にちょうどよかったんだが」
――誕生パーティ?
私と同じく初めて聞かされたロベールとマルセルが、口々に言う。
「たんじょうパーティですか? わたしとマルセルの?」
「わたしとロベールの?」
ふたりはきょとんとして、お互いの顔を見つめ合った。
相手が同じ表情をしていることを確かめるようなこの動作をふたりはよくするのだが、双子だからなのか、兄弟ならよくあることなのか、ロベールとマルセルだからかはわからない。
――こういうのも成長とともに変わっていくのかしら。全部記録しておきたいわ。
「驚かせたかな?」
「あ、いえ」
油断するとすぐにロベールとマルセルに見入ってしまう私に、ルイゾン様が説明を続ける。
「例外もあるんだが、慣例として、王太子は五歳と十歳に規模の大きな誕生パーティを開くことになっているんだ。それ以外の年齢ももちろん祝っていいんだが……」
ルイゾン様は言葉を濁した。ロベールとマルセルの誕生日は前王妃シャルロット様のご命日でもあるから、今まで控えてきたのだろう。
ロベールとマルセルはそのことには気付いていない様子で、無邪気に尋ねる。
「たんじょうパーティはなにをするのですか?」
「また、れんしゅうしますか?」
「今回のお披露目パーティより簡単だ。国内の貴族だけだから」
ふたりが不安そうに顔を見合わせるのを見逃さなかった私は、わざと大袈裟にはしゃいでみせた。
「楽しみだわ! よく考えたら、誕生パーティに参加するのは初めてなの。ロベールとマルセルと一緒ね」
「母上といっしょですか!」
「母上もはじめてでした!」
「ええ、そうよ。記念すべき第一回目がふたりの誕生パーティだなんて嬉しいわ」
同じだということに喜んでくれるふたりに向かって、私は心からの笑みを浮かべる。ふたりも青い瞳をキラキラさせてくれた。
ルイゾン様だけが怪訝そうに尋ねる。
「初めて? 誕生パーティが?」