双子王子の継母になりまして~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~2


「初めてです」

 私はあらためて頷いた。ルイゾン様はさらに追求する。

「参加したことが? しかし自分の誕生日のパーティは出ていただろう?」

「そのどちらも、ありませんでした」

 ロベールとマルセルが驚いた声を出す。

「じぶんのもないんですか?」

「おとななのに?」

「大人でも、人によっていろいろ違うのですよ」

 ふたりに微笑みかけた私は、ルイゾン様にだけわかるよう髪にそっと手を触れた。それで察したのか、ルイゾン様は意味ありげに黙り込む。

 異母妹のカトリーヌは毎年盛大なパーティを開いてもらっていたが、私が参加することはなかった。普段からお客様が来ている時は部屋にいるように言われていたからだ。もちろん、自分の誕生パーティが開かれたこともない。

 ――黒髪だものね。

 あの父とお義母様が黒髪である私を大勢の人の目に触れさせる催しを、わざわざ開くわけがない。

 私とルイゾン様の沈黙をどう捉えたのか、ロベールとマルセルがお互いの顔を見合わせて呟く。

「おとなにもいろいろ……」

「むずかしいです」

「聞いておいてよかった。ジュリアの誕生日はいつだ?」

 ルイゾン様が、気を取り直したように言った。

 私は申し訳なく思いながら答える。

「夏です」

「なんだって? もう過ぎたじゃないか」

 ルイゾン様がそう言ってくれることがわかっていたから。

「ということは結婚してすぐに誕生日だったのか……私としたことが失念していた。今からでもなにか贈ろう」

「あの、いいえ、気にしないでください。私にとってはいつもと同じ日なんです」

 ロベールとマルセルが同じ方向に首を傾げた。

「いつもとおんなじ?」

「たんじょうびなのに?」

 ――か、かわいい。でも混乱させてしまったわ。

 なにか言おうとしたら、ルイゾン様が先に言い切った。

「ロベールとマルセルと同じように、母上も今度から誕生パーティを盛大に開くことになったんだよ」

 盛大じゃなくてもいいとは言えない私に、ロベールとマルセルは嬉しそうな顔を見せる。

「母上もこんどからだって!」

「それもいっしょだねえ!」

 ――かわいい……かわいすぎる……。

 ロベールとマルセルがこんなに喜んでくれるなら、盛大なパーティも乗り切れる気がした。

 ふと、ロベールが尋ねる。

「父上のおたんじょうびは、いつですか?」

「私は春生まれなんだ。王子たちの少し後だな」

 ロベールとマルセルが、ぱあっと顔を明るくした。

「父上よりわたしたちのほうがたんじょうび、はやいんですね」

「ふふふ。たんじょうびって、なんだかおもしろいです」

「おもしろいだけじゃない。誕生日は贈り物がもらえるぞ」

「おくりもの?」

「なかみはなんですか?」

「それはその時のお楽しみだ」

「わたし、たんじょうび、たのしみになりました」

「わたしもです。はやくきてほしいです」

 会話に耳を傾けていた私は、ふと疑問を抱く。

 ――今まで、王子たちに贈り物もなかったのかしら?

 誕生日を祝ってこなかった事情はわかるけれど、ルイゾン様がなにも贈っていない様子なのが意外だった。

 だけど、ルイゾン様は当たり前のように王子たちに言う。

「なにが欲しいか年が明けるまでに考えておくといい」

「はい! たのしみです!」

 ロベールが元気よく答えた後で、マルセルが首を傾げた。

「じゃあ、わたしたちのパーティのあとに、父上のたんじょうパーティもひらくのですか?」

「そうなんだが、私の場合、誕生日を単独で祝うことはなく、春を祝うパーティと一緒に毎年開催している」

 私は思わず口を挟む。

「春を祝うパーティのことは聞いたことがあります。ルイゾン様の誕生パーティも兼ねていたのですね」

 実家にいた時、父とミレーヌお義母様が『春を祝うパーティが今年も開催されたようだ』と話していたことを思い出した。招待されなかったことでお義母様が父を責め立てていたことも。

「そういうことだ」

 私はとっさに謝った。

「申し訳ありません」

 ルイゾン様は不思議そうに聞き返す。

「なんのことだ?」

「国王陛下の生誕記念を意識していなかったなんて」

 私自身が誕生日を特別視しないから、他の人のも意識できなかった。もちろん、私が気付かなかったらフロランスあたりがそっと教えるだろうが、これは明らかに私が黒髪だからこその弊害だ。

 だが、ルイゾン様はなんでもないように言い添える。

「いや、表向きはあくまで春を祝うパーティだから、ジュリアが謝ることはない。王になると、パーティだらけで、まとめられるものはまとめたくなるんだ」

 なるほど。

 ――ということは、私の誕生日もなにかと一緒にした方が合理的じゃないかしら?

 悪くない提案に思えて口を開きかけたが、ルイゾン様の方が早かった。

「誕生日の話は置いておいて、ジュリアのドレスの話を聞かせてくれ」

「えっ?」

「今日、採寸したんだろう?」

 ――したけど、でも、えっと。

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