異動する先輩から食事に誘われたら






 先輩との食事会は緊張して会話がはずまないまま終了した。

 ああ。
 私はがっくりと落ち込む。

 そうだよね、急展開して仲良くなるとか、あるわけないよね。

 お会計に向かうと、先輩がおごってくれると言うから慌てた。

「私が出します! 異動の餞別に!」
「いいよ。ここは男を立ててよ」

 そう言って優しく微笑まれると、私はなにも言えなくなって財布を握りしめた。

 店を出るとすぐ、私は頭を下げた。

「すみません、ありがとうございます」
「いいよ。俺が無理に誘ったみたいだし」

 言われて、胸がぎゅっとした。会話が盛り上がらなかったから、先輩に無理をしたと思われたみたいだ。

「無理じゃないです! 一生の記念ですから!」
「なにそれ」

 先輩がぷっと吹き出すから、恥ずかしくてうつむいた。

「じゃあ記念日ってことで、来年の今日もまた一緒に食事してくれる?」

「え?」
 私は驚いて先輩を見た。

 先輩は穏やかな笑みを浮かべて私を見返す。

「ちょっと歩かない?」
「はい」

 私が答えると、先輩はほっとしたような顔をした。
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