depot~停車駅~(短編)
「大丈夫だよ。自転車なら十分間に合うから。じゃあ、借りて行くよ」
そう言って、俺がママチャリに跨った瞬間、ポツリ、と水滴が鼻の頭に落ちて来た。
「あれ?」
一瞬、鳥の糞でも落ちて来たかとぎょっとして、鼻の頭を拭いながらを空を見上げる。
ポツリ、ポツリ――ぽつぽつぽつ。湿った土の匂いが鼻孔をくすぐる。
雨だった。
午後二時の夏の空は、晴れて澄み渡っている。
なのに、何故だか雨が降っている。
「ありゃぁ!? お天気雨だわぁ! 傘、傘!」
今度は、ばーちゃんが慌てて母屋に傘を取りに行くのを、俺は何となく釈然としない気持ちで見ていた。