その溺愛、全部俺にくれる?【コンテスト用シナリオ】

三話:最後の恋をしよう


◯朝・キッチンにて

大量のおかずが並んでいるのを見てハッとする彩羽。
彩羽(や、やってしまった……)

彩羽(山縣くんのことを考えていたら、どうしてもたくさん食べさせたくなってしまった)
エプロン三角巾しっかり髪の毛をひっつめてる彩羽の姿。

彩羽(母性め……)
彩羽(食べ物たちに罪はないからね、詰めていこう)

お重に詰めようとして箸が止まる彩羽。

彩羽(まさかこのお重がお母さんぽいのでは……)

ちょっと考えた彩羽は自分のお弁当箱と男用のお弁当みっつにそれぞれ詰めていく。
そして胸ポケットにいれていた小さなノートに何か書いている。

◯リビング
彩羽の父と弟の音弥(おとや)が朝ごはんを食べている。

彩羽「はい、二人のお弁当ね!」
二人分のお弁当箱を保冷バッグに詰めてドン、ドンと二人の前においていく。

彩羽「お父さんも音弥ものんびりしてる場合じゃないでしょ、はい、ハンカチもここにおいてあるからね」
彩羽父・音弥「「ん」」
彩羽「私はもう行くからね。ちゃんとエアコン切って、電気も点けっぱなしにしないように。では、いってきます!」

大きな保冷バッグをもって出かけていく彩羽。


◯昼食時・中庭

皆が食事しているなか、彩羽と皐月もテーブル付きのベンチに座る。

彩羽「減点ポイントがあったら正直に言って」

彩羽、テーブルをアルコールウェットティッシュで拭き、ランチョンマットを敷く。
大きな保冷バッグからお弁当を出す。 
お弁当は、一段目は梅しそ混ぜ込んだおにぎり、鮭おにぎりがラップに巻かれてふたつ。横には漬物が添えられている。
ブリの照焼、ほうれん草のおひたし、筑前煮、卵焼き。
小さなタッパーにはカットされたオレンジ。

彩羽(彩りはいいと思うんだけど)

お弁当を見ている皐月の前に、お箸を出してから

彩羽「はい」
冷たく冷えたおしぼりを手渡す。

皐月「ありがとう、いただきます」

皐月素直にお弁当を食べ始める。彩羽は大きな水筒を取り出して、お茶を注ぐとカップを皐月の前に置く。

彩羽「どうでしょうか」
そう言いながらタッパーのオレンジに、カラフルなピックをさしていく。その様子をじっと見ている皐月。

皐月「彩羽は食べないの」
彩羽「食べるよ」
皐月「見ててせわしない」
彩羽「……勉強になります」

彩羽小さなノートに【食事中に世話を焼きすぎない】と書く。ノートの表紙は【脱オカン!メモ】と書かれている。
【食事中に世話を焼きすぎない】の上には【お弁当はお重に詰めない】と書いてある。
 
皐月「味は美味しい」
彩羽「よかった。あ、でもメニューはどうかな? いつもっぽいものにしちゃったんだけど『昼食まで親みたいな飯食べたくない』って言われたことあって、もう少しおしゃれ飯みたいなのもいいかな?と思うんだよね。山縣くんは好きな食べ物ある?」

興味津々に聞く彩羽を皐月はみる。

皐月「親いないから。こういう飯、新鮮」

おひたしをもぐもぐ食べる皐月を見て、また母性メーターがあがる彩羽。

彩羽(ん、親がいないって言った……?)
戸惑ったように固まる彩羽を見る皐月。

皐月「別に気にしなくていいよ」
黙々と食べ続ける皐月。
彩羽(あんまり触れないほうがいいよね)
彩羽も黙って食べ始める。

彩羽(食べっぷりよくて嬉しいなあ)
微笑ましく皐月を見つめる彩羽。

皐月「なに」
彩羽「美味しそうに食べてくれて嬉しいなあと思って」
ニコニコしている彩羽。

彩羽「もしかしてこうやって見守るのもオカンっぽい……!?」

デフォルメ絵彩羽、慌ててノートに【ご飯中、見守らない】と書く。

皐月「いや……」
過去に「もっとなにか喋ってよ!」「私といても楽しくない?」と言われていたのを思い出す。

目の前の彩羽が「あまりにも美味しく食べてくれるから見てて楽しくなっちゃって」と言い訳している様子をみて、口元がゆるむ皐月。

皐月「えびふらい」
彩羽「ん?」
皐月「エビフライが好き」
彩羽「任せて……!!!!!」

キラキラの目でやる気満々の彩羽。二人は楽しく食事を終える。


◯放課後・教室

彩羽(どうしよう……案外楽しい!?!?!?)
困惑した表情の彩羽。ここ数日のことを思い出している。

お昼一緒に食べているふたり。
大量のエビフライを幸せそうに食べている皐月とそれを嬉しそうにニコニコ見守っている彩羽。

放課後勉強を教えている彩羽と素直に聞いている皐月。

山盛りアイスを食べている皐月。零れそうなアイスを支えたり汚れた場所を拭く彩羽。

優以「やっぱ相性いいよねー」
美佐「ねー」

彩羽の後ろで二人がニヤニヤしている。

彩羽「確かに今はうまくいってるけど……」

彩羽(世話焼きたがりの私と焼かれることにあんまり抵抗がなさそうな山縣くん)
彩羽(それこそ、恋人より親子になってるかも)
彩羽(でも山縣くんはけっこう食べる人だからご飯作りやる気がでちゃうんだよなあ)

彩羽、ピンときて焦った顔になる。

彩羽(山縣くんはあんまり顔に出ないから、本当は嫌なのでは!?)
彩羽(気をつけなきゃ……脱オカン!メモに書いておこう)

彩羽、ポケットを漁るけど小さなノートはない。

彩羽(あれ?)
優以「彩羽~? 彼氏が迎えに来たよぉ~?」

優以に声をかけられれば、そこには皐月がいる。

皐月「帰ろ」
彩羽「ちょっとまってね」
皐月「何か探してんの」
彩羽「脱オカン!メモ!」

カバンを漁っている彩羽の腕を皐月が掴む。

皐月「いらなくない?」
彩羽「ん?」
皐月「彩羽が今まで書いてたこと、俺、嫌じゃないから」

腕を掴まれて真剣な顔で言う皐月にどぎまぎする彩羽。
後ろで美佐と優以がニヤニヤ見守ってる。

皐月「だから帰ろ」
彩羽「う、うん……」


〇学校・廊下
そのまま手を繋いで歩いていく皐月と彩羽。
皐月は涼しい顔だが、彩羽の顔は赤い。

彩羽(手を繋がれている……!)
隣にいる皐月を見あげる。

彩羽(山縣くん、相変わらず何を考えているかわからないけど……)
「俺、嫌じゃないから」を思い出して嬉しくなる彩羽。

彩羽ちょっと難しい顔をして二人が進んでいくと、廊下の奥に何人かの人がいる。
そこには掲示板があり、落としものなんかも置いてある。
掲示板には、見覚えのあるノートが貼ってあり、ノートの横には【脱オカン!メモ(笑)】と書いてあった。
一人がそのノートを取って、読み上げていく。

彩羽「あ……」
サーッと青ざめる彩羽。

女生徒1「なにこれ笑」
男生徒1「あー、これ多分、有馬彩羽のノートだわ笑」
女生徒2「なんでわかるの?」
男生徒1「和希の元カノだから。 まじでオカンみたいだった笑」
女生徒2「えー、どういうことしてくるの」
和希「あー笑 そこに書いてあるようなことしてくるよ笑」

その中には和希もいて、他の生徒と一緒に笑っている。
そのうちのひとりが、彩羽がいることに気づいた。

女生徒1「ねーまって、有馬さんいるから笑」
生徒たちが手を繋いでいる彩羽を見る。彩羽はパッと皐月の手を離した。

男生徒1「次は山縣かよ、節操ないよなー」

皐月が彩羽を見ると、彩羽はへらりと笑った。
彩羽「ご、ごめんね。山縣くんまで悪く言われちゃった。ちょっと取ってくるね!」

彩羽が人混みの方にいこうとすると、皐月がそれよりも先に前に出て、ノートを奪い取った。
皐月、無表情でノートをぺらぺらとめくり読んでいく。
皆、皐月の迫力に圧倒されてその様子を見ている。

皐月「母親の愛って無条件ていうじゃん?」
皐月「俺は嬉しいけどね、見返り求めない愛」
皐月「それに気づかないお前ら、もしかしてこの年にもなってママ反抗期?」

バカにしていた人たちを見て、いじわるそうに微笑む皐月。
和希、カァと赤くなり憤慨する。彩羽、その様子を見て心が動いている表情。

和希「騙されてんだよ、お前」
皐月「……?」
和希「そいつは愛が重くて、求めてないことばっかしてくるくせに、キスのひとつも許さない固すぎる女だから」

和希が苛立って言うけれど、皐月は無表情のまま。彩羽、うつむく。

皐月「へえ。つまり、性欲解消してくれないよーって拗ねてたんだ?」
和希「な……」
皐月「彼女への愛を間違えてんじゃない?」

周りの女子が少し引いた目で和希を見ている。

和希「そんなきれいごと言うけど。「キスも全部、永遠の愛を誓う人がいい」なんて言われたら引くだろ」

周りの女子が「まあそれは……」と納得する表情を見せる。

皐月「引かない。俺だって最後の恋のつもりだから」

皐月、真剣な表情で周りに言い放つ。彩羽、驚いたように皐月の顔を見る。
彩羽の元に戻ってくると手をしっかり握る。

和希「どうせすぐ別れるわ」
男生徒1「しらけた、行こ」
彼らが去っていく。

皐月「帰ろ」
彩羽「うん」

繋がれた手を見て、涙をこらえながら彩羽は歩いて行った。
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