その溺愛、全部俺にくれる?【コンテスト用シナリオ】
五話:正反対の永遠の愛
〇夕方 彩羽の家までの帰路
歩いている二人。
彩羽(今日本当に楽しんじゃったな)
ニコニコしている彩羽の腕の中にはたくさんの人形がいる。
〇回想一コマ:ゲームセンターのクレーンゲームで人形を取ってくれている皐月
喜んでいる彩羽と地味なドヤ顔をしている皐月。
デフォルメ優以「彩羽プチ情報:可愛いぬいぐるみを集めているよ!」
〇回想おわり
にこにこしている彩羽を見る皐月。
特に会話が盛り上がっているわけでもないのに嬉しそうな彩羽のことがわからない様子。だけど口元は嬉しそう。
彩羽「本当に全部おごってもらってもよかったの?」
皐月「いい。いつも昼飯代払ってないし」
彩羽「それはそうだけど……」
皐月「今日楽しかったならそれでいいでしょ」
彩羽「うん、すごく楽しかった。ありがとう、山縣くん」
皐月「皐月」
皐月の促されて、どきどきした表情で名前を呼ぶことにした彩羽。
彩羽「……皐月」
皐月、その場に止まる。彩羽のことを突然抱きしめる。
彩羽「なにを」
皐月「可愛かったから。……こういうこと、自分からした方がいいんでしょ」
彩羽「それはそうなのですが」
抱きしめられながら真っ赤になっている彩羽。
彩羽(理想の彼氏練習としては百点です! でも、心臓にわるい)
皐月「俺のこと好きになってきた?」
彩羽「…………」
顔を隠そうとする彩羽の顎を持ち上げて、無理やり上を向かせる。
彩羽の表情に満足そうな様子の皐月。その顔を見てまたどきどきしてしまう彩羽。
彩羽「そろそろ帰らないと!」
皐月「ん」
あっさりと離れる皐月。
彩羽(そこは離れるんだ)
離れたら離れたで少し寂しい気持ちになってしまう彩羽。
皐月「じゃ」
彩羽「うん。今日はありがとうね」
あっという間に家の前について、ばいばいすることになる。
彩羽、少し名残惜しい気持ちになって玄関から見送っていると
皐月「見送らなくていいから」
そっけない物言いに一瞬傷つく表情になる彩羽。皐月は少し困った顔をして
皐月「あーちがう。危ないから。家入って」
そっけなく見えるけど実は優しい理由に気づき、彩羽は頬が緩んでしまう。
彩羽「ありがとう。おやすみ」
皐月「じゃ」
〇彩羽の部屋
彩羽、急いで二階に上がって窓から皐月を見送る。
皐月はまだ名残惜しそうな顔をして家の前にいる。
その様子を見て、胸がぎゅっと痛む彩羽。
カーテンを閉めてもベッドの上に座り込んでもまだどきどきが続いている。
彩羽(どうしよう……)
恋をしている表情をしている彩羽。
部屋のドアから音弥の声が聞こえてくる。
音弥「ねえちゃん、帰ってきたー? 飯あるー?」
彩羽「冷蔵庫に入れてたでしょ、レンチンするだけだよー」
音弥「なんふん?」
彩羽「もー。待ってて」
彩羽、立ち上がり部屋から出て行く。
〇キッチン
彩羽、作っていたオムライスをレンジで温めている。
スマホが震えたことに気づき、見てるとグループメッセージが届いていた。
優以【今日どうだった?♡ デートコース満足していただけましたか♡】
美佐【好きになっちゃったんじゃない?♡】
彩羽、そのメッセージをどこか暗い表情で受けとる。
皐月が「両親みたいになりたいから」という言葉と、その時の優しげな表情を思い出す。
ぼうっとしていると、レンジの音がなった。
レンジからご飯を取り出して、ダイニングテーブルに座る音也のもとに持っていく彩羽。
彩羽「はい。次からは自分であっためてよね。時間なんて適当なんだから」
音也「それがわかんないんだってばー」
**
〇過去回想
〇ぐしゃぐしゃに散らかっているリビング。
小学生高学年くらいの泣いている彩羽と皐月。ダイニングテーブルで父が泣いている。
子供彩羽「お母さんは?」
彩羽父「お母さんは……出かけちゃったみたいだ」
子供彩羽「なんで?」
彩羽父「お母さんはちょっと自由が好きすぎたんだな」
念入りに化粧をした母親がスーツケースを引いて家から出て行くコマ。
〇彩羽の部屋・早朝(デートの翌日)
彩羽「はあ……はあ」
ベッドで汗だくで飛び起きた彩羽。
彩羽「夢か」
部屋を見渡しながら、暗い顔の彩羽。
〇洗面所
洗濯機から洗濯物を取り出している彩羽。
彩羽(お母さんはお父さん以外の人を好きになって出て行った)
彩羽(私はお母さんみたいになりたくない)
母親がコンビニ弁当を彩羽と音也に渡しているコマ。
汚い部屋でそれを食べている彩羽と音也。
彩羽(私は、理想のお母さんに、奥さんになりたい)
掃除機をかけている彩羽。
彩羽(私が献身的になれば、きっと夫婦円満でいられるから)
彩羽(だから私は……)
朝ご飯とお弁当を作る彩羽の顔は思いつめている。
**
◯中庭・お昼
テーブル付きベンチにはお重。大量のおかずが並んでる。
皐月「すごい量だね」
彩羽「朝早く起きすぎちゃって。全部食べなくてもいいよ」
皐月「全部食べる」
黙々と食べ続ける皐月をぼんやりと見る彩羽。
彩羽の様子がいつもと違うことに皐月は気付く。
彩羽「はい、おしぼり」
一通り食べ終わった皐月におしぼりを渡す彩羽。
皐月と目を合わせようとせずに保冷バッグを漁っている。
彩羽「食後のお茶淹れるね」
皐月「いらない」
彩羽「じゃあデザートは?」
皐月「いらない」
彩羽「お腹いっぱいかな? じゃあジュースは――」
皐月「いらないから」
彩羽「ご、ごめん。迷惑だったかな?」
彩羽が顔をあげると皐月は彩羽の隣に座っていた。彩羽の顔を両手で挟み込み自分の方に向ける。
皐月「やっと目合った」
彩羽「…………」
皐月「なんかあった? 俺昨日なんかした?」
彩羽「してないよ!」
彩羽慌てて訂正するけど、やはり皐月の顔がしっかり見れない。
彩羽「むしろデート完璧すぎた! あんな素敵なデートだったら、もう『私のことなんて好きじゃないんだ』なんて思わないよ。気持ちが伝わると思う。だからもうお試しの恋人は終わりにしても」
皐月「しないよ」
彩羽が皐月の顔をみれば真剣な顔でこっちを見ている。
皐月「俺、彩羽と最後の恋がしたい」
彩羽、心が揺らいでいる表情になる。
皐月「なんで今まで告白されたら「運命の人かも」って思ってたのに、俺だけそんな慎重なの?」
彩羽「それは……」
皐月「俺、なんかした? 顔が好きじゃない?」
キラキラの顔で見つめてくる皐月。
彩羽(……この顔が嫌いな人などはいない。じゃなくて)
目を背けようとする彩羽の顔をじっとみる皐月。
皐月「こっち向いて」
真剣な皐月の表情に泣けてきてしまう彩羽。
彩羽「……本当に好きになっちゃうのが怖い」
皐月「え?」
彩羽「今まで、恋に恋、してたのかも。皐月くんのことは、本当に好きになっちゃいそうでこわい」
皐月「は……え?」
皐月、初めて動揺した顔をする。顔が赤くなり、嬉しいのか困っているのかわからない表情。
初めて見る顔に彩羽も戸惑う。
皐月「えっと……それの何がダメなの」
皐月、彩羽のことをぎゅっと抱きしめる。そして確認するように自分の方に彩羽の顔を向かせる。涙目の彩羽がいる。
彩羽「……皐月くんと私、永遠の愛に憧れる理由が違うの」
彩羽「皐月くんは、ご両親みたいになりたいってポジティブな理由だけど、私は真逆で」
彩羽「私の親はうまくいかなかったんだ。親みたいになりたくなくて、永遠の愛を求めてたけど。
……でも、ほんとうは誰かのことを好きになるのが怖い」
一言吐き出すたびに彩羽の目から涙がこぼれていく。
彩羽(仲がよかった両親がいがみ合う姿も、大切にしていた人がいなくなってしまう恐怖も)
小さい彩羽が耳を閉ざしてないている姿のコマ。
彩羽「私のやってること、皐月くんは『見返りを求めない愛』って言ってくれたけど。本当はやり方がわかんなかっただけだし、本当は相手のことを好きじゃなかっただけなんだ……振られるのも当然だったんだよ」
彩羽「ずっと好きでいてほしくなっちゃうから、好きになるのが怖い」
彩羽が泣いているのを驚いた顔で見ている皐月。
皐月「はあ」
ため息をつく皐月。
彩羽(……めんどくさいこと言ってしまった)
皐月「俺も彩羽も最後の恋にしたいって気持ちが一緒ならそれでよくない? 理由が違っても」
彩羽「わたしは、まだ皐月くんのこと――」
皐月「こうやって大泣きしてるのが、俺のこと好きって言ってない?」
皐月は愛おしそうに彩羽を見つめて微笑んでいる。
彩羽「だって本当の理由聞いたらますます重くない? 私」
皐月「言ったよね。俺、愛が重いのがいいって」
彩羽「…………」
皐月「それでもだめなの?」
皐月「最後の恋にするっていうの、変わってないから。彩羽が嫌だって言っても離すつもりないけど、どうする?」
彩羽(そんなの……)
彩羽の涙を全部拾ってくれる皐月。
皐月「てか、これで本当の恋人ってことでいい?」
彩羽「ま、まだだよね!?」
皐月「ふーん?」
皐月「いいよ。彩羽が心から俺の気持ち信じられまで、ひたすら甘やかしてあげるから」
彩羽「皐月くんが今まで振られた意味がわからないよ」
彩羽不思議そうな顔をするのを皐月は楽しげに見ている。
皐月「彩羽の気持ちがわかった。溺愛するの悪くないね」
彩羽の両手が皐月の両手に絡めとられる。
そのまま顔を近づけた皐月は鼻と鼻をくっつける。
彩羽「キス……」
皐月「キスじゃないよ。鼻くっつけただけ」
皐月「俺との最後の恋が信じられるようになったら、そのときは彩羽からキスして」
彩羽「……わたし、から……」
皐月「楽しみに待ってる、何年かかってもいいよ? 待ってるから」
パッと手を離して、口角を上げる皐月。
彩羽(形勢逆転。私が溺愛されることになってる!?
皐月くんの溺愛のほうが深そうです)