正反対の彼と私の24年を経た恋の結末

21.彼の抱える秘密。

「ルーク皇子殿下、あなたは剣を握ったことがないのではありませんか?大変柔らかそうな白魚のような手をしております」

「白魚のような手とは何だ?マリーナ、お前はまた変なこと言って」

私は今まで変なことを言った覚えはないが、私がまた変なことを言っているとユーリ皇子が指摘する。
私は岩田まりなだった時も変わり者だと言われることが多かったので、1週間でこの世界でも変な部分が出てしまったようだ。

「ルーク皇子殿下のような繊細で儚い美しい手のことを言います。ユーリ皇子殿下、ご自分の手を見てください。ガッチガチの岩みたいになっております。剣を日常的に握るとそのような手になります」

私の言葉にユーリ皇子殿下が素直に手のひらを見つめる。
私は口説かれるより、こういった唐突な素直な態度にとても弱い。

(23年前もそうだった⋯⋯)

「マリーナ様のいう通りです。僕は剣を見ると震えてしまって、実は剣が握れません」
ルーク皇子が意を決したように震える声で伝えてくる。
「何かあったのですか?殿下が剣を握れなくなる原因があったはずです。刃物が怖いのですよね。それは別に悪いことではありません」

私は自分が工場で指を切断した後、しばらく刃物が怖くて包丁を握ると手が震えた。
料理をするのも慣れていたはずなのに、包丁で他の指まで切り落としてしまう白昼夢を何度も見た。

夜眠りにつくと、体が工場の機械に巻き込まれ切断される夢を見てうなされた。
ハサミやカッターのような幼児期から使っていた刃物さえも、見るだけで指を切るんじゃないかと怖くなった。

苦しい日々だったが毎日のように刃物に囲まれた工場で働き、包丁で料理をするうちに何とか慣らしていった。
「剣」というフレーズが出た時のルーク皇子の声の震えから察するに、何らかのトラウマを抱えている可能性が高い。

「剣が握れないって、ルークは昨年から戦場に行ってるんじゃないのかよ」
「行ってません。武勲をあげているのは、僕の替え玉です。僕は5歳の時に暗殺者に命を狙われて以来、剣が握れません。母上が僕を皇帝にしたくて、替え玉をたて戦場に出しているのです」

ルーク皇子が震える右手で肩を抑えながら、苦しそうに真実をユーリ皇子に真実を打ち明けている。
ルーク皇子はずっと本当のことを、兄であるユーリ皇子に伝えたかったのだろう。

「暗殺者に肩を切られたのですか? 」
私は立場も弁えず、ルーク皇子殿下に尋ねた。

私は5歳の彼が命を狙われた恐怖心を思うと苦しくなってきた。
ルーク皇子が俯き、ゆっくりと首を振る。

「まだ傷が残っているのか? 見せてみろ」
ユーリ皇子が半ば強引に、ルーク皇子の服を脱がそうとする。

「ユーリ皇子殿下、乱暴はやめてください」
私が止めるよりも早く、ルーク皇子殿下の背中があらわになった。
そこには命を繋ぎ止めたことが奇跡と思えるような、背中を切り落とそうとしたであろう深い傷跡があった。

「どうして、お前の命を狙う人間がいるんだ。お前は世界一大切にされる皇后の子なんじゃないのかよ」
ユーリ皇子殿下の声が震えている。
彼はきっと弟の苦しみを知らず辛く当たってきたことを悔いているのだろう。

「辛かったですね。ルーク皇子殿下」
私が泣いたのはいつぶりだろう。
理不尽な婚約破棄をされた時も泣かなかったのに、涙が溢れて止まらなかった。
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