正反対の彼と私の24年を経た恋の結末

23.味方のいない時間。

小学校1年生の時、恵麻は体育の授業から戻るなり自分の練り消しがないと騒ぎ出した。
「まりなが教室に縄跳び忘れたって言って、1人だけ教室に戻った時があったよね」
恵麻が私を疑うように言ってきた言葉にクラス全員が私を疑い出した。

「私は縄跳びをとりに行っただけだよ」
私は疑いの視線が怖くて震える声を絞り出すように言ったが、みんな私を泥棒扱いして無視し出した。

「先生、私が田代恵麻さんの練り消しを取ったと疑われているんです」

当時の担任であった渡部先生に状況を説明したら、先生は私のランドセルをひっくり返した。
私の持ち物が全て床に散乱する。

「練り消しは見つからないな。田代さん、岩田さんが練り消しを取った証拠はないから許してやりな」

私は自分がありもしない疑いをかけられた上に、床に荷物を散乱させられた。
それでも、私は自分が田代恵麻に許されなければならない立場だと先生に言われた。

先生は大人だから、大人の言うことは正しい。
当時7歳だった私はそう思ってしまった。

目がクリクリして可愛い恵麻は先生のお気に入りだった。
私は渡部先生には「賢ぶって可愛げのない子」と言われたことがあって嫌われている自覚はあった。

今思い返すと先生の対処の仕方はおかしい。
明らかに自分の好き嫌いが反映した対応を子供に対してしていた。

「とりあえず許すけど、どこかに隠しているなら早く白状してね」
恵麻が私を見下すような目で言ってきた。

「信じてくれてありがとう」
私は散乱した自分の持ち物をランドセルに詰めながら言った。

私はその後、長い間毎日のように泥棒扱いをされた。
私が登校すると「泥棒が来た」と皆が私を避けた。

「あれ、練り消し」
私はある日、恵麻の筆箱に無くしたと大騒ぎしているた練り消しを見つけた。

「盗んだのをそっと戻したの?特別に許してあげるよ。まりなは私の赤ちゃんの時からの友達だから」
恵麻が言った言葉に私は「元々盗んでいない」と叫びたかった。

「ありがとう」
私の発する言葉は私の意思とは反していた。
恵麻は自分が無くした練り消しを、私のせいにしただけだ。

もしかしたら、私が泥棒扱いされて苦しむのを楽しんでいたかもしれない。
それでも私は彼女に従うしかなかった。

なぜならば、大人である渡部先生までもが恵麻の味方だ。
私がそこで恵麻を責めても渡部先生は恵麻の言い分だけを信じる。
教師という職業は恐ろしい。

小さな子供に対しては絶対の権力を持っている。
先生が泥棒扱いすれば、その子は泥棒だ。

私が教師になりたいと思ったきっかけは素晴らしい先生に会っただけではない。
最低の先生にも出会っているから、その職業の持つ責任を自分が担いたいと思った。

自分がその時に騒いだら、もっと酷い目にあうとわかっていた。
恵麻と私は同じ産婦人科で同じ日に生まれて親同士が仲が良い。

母親に恵麻は赤ちゃんからの友達だから大切にするようにと言われてきた。
だから、私は何度感情を弄ばれようと、恵麻を好きでいようと努力を続けた。
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