『人生 ラン♪ラン♪ラン♪』 ~妻と奏でるラヴソング~
          *  *
 翌日、開店前に売場に向かった。
「おはようございます」
 売場主任に挨拶をした。
「早いね~」
 主任は驚いていた。
「今日はこれを提案してみます」
 POPとイラストを見せると、〈ふ~ん〉というような表情を浮かべたが、「頑張ってね」とわたしの肩をポンと叩いて笑みを浮かべた。
 特陳コーナーに『低脂肪でヘルシーな《はんぺんハンバーグ》を今日の食卓に!』というPOPを付けた。それから、はんぺんだけでなく、他の売場の責任者から許可を貰って、玉ねぎや鮭フレークなどを並べた。最後に調理方法のイラストを付けた。
 付けた瞬間、少しドキドキした。〈関心を持ってくれるだろうか? 立ち止まってくれるだろうか? 手に取ってくれるだろうか? 買ってくれるだろうか?〉と不安になった。
 
 開店して30分ほど経った頃、小さな子供を連れた若い母親が特陳コーナーで立ち止まった。
「ハンバーグにしようか」
「やった~、ハンバーグ♪」
 小さな子供が嬉しそうにはしゃいだ。それを見た母親が頷いて、はんぺんと鮭フレークをカゴに入れた。それは、自分が提案した商品が初めて売れた瞬間だった。
 体が固まって動けなくなった。そのうち、何か今までに経験したことのないような気持ちになってきた。じわ~っと体の中から喜びが湧き出してきた。
 嬉しいな~、
 こんなに感激するなんて、こんなに最高の気持ちになるなんて、思ってもみなかった。
 その日は何十人も特陳コーナーに立ち止まり、そして、多くの人が買ってくれた。
 結果を報告すると、売場主任から賞賛と労いの言葉をもらった。これも嬉しかった。他人から褒められることの喜びを噛みしめた。
 仕事が面白くて面白くてたまらなくなった。その店だけでなく、担当したほとんどの店で売り上げが増え、店長や売場主任からの信頼を勝ち取っていった。

< 15 / 164 >

この作品をシェア

pagetop