『人生 ラン♪ラン♪ラン♪』 ~妻と奏でるラヴソング~
          *  *
 その後は年を追うごとに販売成績が上がった。連れて社内の評価も上がり、30歳で量販本部担当になった。スーパーマーケットのバイヤーと交渉する重要なポジションだ。ここでも顧客目線の提案を続けてバイヤーからの信頼を勝ち取っていった。その後も順調で、広域量販課で売り上げ上位の常連になるのに時間はかからなかった。そして遂に39歳の時、念願のポジションに辿り着いた。売り上げ成績トップに立ったのだ。それだけでなく、翌年も、その翌年もトップを守り抜き、自他共に認める広域量販課のエースになった。そして42歳の時、課長に昇進した。入社してちょうど20年が経っていた。
 
 課長就任の挨拶をするために各量販店を回ることにしたが、最初の訪問は新人の頃お世話になったあの店に決めていた。当時の売場主任は店長になっていた。
「三木田さん、おめでとう」
 当時よりふくよか(・・・・)になった彼がわたしの手を強く握った。
「ありがとうございます。その折は本当にお世話になりました。頂いたアドバイスのおかげです」
 すると、彼が首を傾げた。
「君に何か言ったかな?」
「『主婦の気持ちに寄り添って提案してね』とアドバイスしていただきました」
「そうだったっけ……」
「はい。常にお客様の気持ちに寄り添って仕事をするきっかけになりました。あのアドバイスがなかったら、自社製品を売ることだけに囚われていたかもしれません。本当にありがとうございました」
「嬉しいね、そんなことを覚えてくれていて。それをやり続けてくれていて。そんな人はなかなかいないよ。ありがとう、こちらこそ」

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