『人生 ラン♪ラン♪ラン♪』 ~妻と奏でるラヴソング~
          ♪ 1998年~ ♪

 広域量販課の課長を3年務めたあと、仙台支店の支店長に昇進した。
 わたしは先頭に立って東北地方にあるスーパーマーケットの本部を訪問し、仕入部長や幹部、時には社長と商談を行った。ここでもお客様目線の提案が評価され、次々に採用になった。それに勢いを得て益々営業活動を活発化した。それが売り上げ増につながり、プラスの循環サイクルがグルグルと回り始めた。それでもわたしは力を緩めず、高い目標を定めて挑戦をし続けた。その結果、5年間で仙台支店の売り上げを倍増させることができた。それが評価されたのか、次の辞令が下りた。『東京支社長を命ず』。それは、50歳を迎える年の春だった。
 
 5年振りに戻ってきた東京支社は活気がないように思えた。それだけでなく、社内が雑然としていた。社員の机の上には書類が山積みされ、通路には段ボールなどが無造作に置かれていた。整理整頓ができていなかった。
「なんでこんなに汚いんだ」
 総務課に所属している旧知の社員に聞いた。
「その~、前の支社長が……」
 言いかけて言葉を濁した。顔が少し歪んでいるようにも見えた。よほど酷いことがあったのだろう、わたしは急かさず彼が口を開くのを待った。
 しばらくして彼が〈ふ~〉と息を吐いたあと、言いにくそうに話し始めたが、それは予想を超えた酷いものだった。

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