『人生 ラン♪ラン♪ラン♪』 ~妻と奏でるラヴソング~
 1975年になってもオイルショックの後遺症は色濃く残っていた。
 そんな中での就職活動だった。
 厳しいと覚悟はしていた。
 しかし、厳しいどころではなかった。
 東京に本社のあるすべてのレコード会社を受験するつもりだったが、
 門戸を開いている会社はほとんどなかった。
 問い合わせても、
 「今年度の新卒採用予定はありません」という回答しか返ってこなかった。

 そんな厳しい状況であったが、若干名募集しているレコード会社が1社だけ見つかった。
 知名度の低い新興の会社だったが、(わら)にも(すが)る思いで応募した。
 しかし、惨めな結果で終わった。
 書類選考で()ねられたのだ。
 レコード会社志望の大学生が殺到する中で、
 音楽業界でのアルバイト経験もなく、コネもないわたしにチャンスが訪れるわけがなかった。

 なんでバイトすることを思いつかなかったんだ……、

 自分の甘さに気づいて愕然とすると共に、
 物事について深く考え行動してこなかった大学4年間を悔やんだ。

 夢が断たれたショックは大きかった。
 落ち込むだけでなく、絶望が襲ってきた。
 目の前には暗闇しかなかった。
 悪いことばかり考えるようになり、夜も眠れなくなった。

 しかし、時間の余裕はなかった。
 将来の進路を早急に決めなければならないのだ。
 就職浪人をして来年もう一度挑戦するか、
 それとも、レコード会社を諦めて他の業種に就くか、
 どちらかを決めなければならなかった。

 本音を言えば、就職浪人を選択したかった。
 夢を諦めたくはなかった。
 しかし、そんな甘いことを言える状況ではなかった。
 「1年間就職浪人させて下さい」なんて親に言えるはずがなかった。
 オイルショックの影響で父の給料が減っているようだし、
 来年は妹の大学受験が控えている。
 経済的に厳しいことがわかっているのに、
 これ以上負担をかけるわけにはいかなかった。

 なんとかしなくては……、
 ふらふらしながら立ち上がり、
 バスと電車を乗り継いで大学へ向かった。
 
< 5 / 164 >

この作品をシェア

pagetop