【完結版】みっちゃんが愛したヒトは、結ばれてはいけないと思うヒトだった
間中は”普通“に男とやっているし、その男なんてわざわざ俺に手土産まで持って挨拶に来たし、俺の前で2人で痴話喧嘩まで繰り広げ、何とも幸せな関係を見せ付けてきたくらいだった。


そんな間中に文句を言おうとした時、真中の顔が横顔になり、真剣な顔で愛姉が映るミラーを捉えた。


「このヘアスタイル、前の担当者さんがやったんですよね?」


「・・・・そうだね。」


あまりにも真剣な横顔だったので思わず仕事の話の方に乗ると、真中が安心した顔で笑った。


「ですよね、ビックリした。
店長がこんなヘアスタイルにするわけないですもんね。」


めちゃくちゃ腕の良い真中がそう言ってきた。


そう、言ってきた。


愛姉のクセが強い髪の毛を上手く活かしたヘアスタイルにしたのは俺だった。
俺が、愛姉のクセ毛を活かしたロングヘアにしてみせた。


その時の愛姉の顔も凄く嬉しそうだった。
その時の愛姉の顔も凄く幸せそうだった。


俺がこのヘアスタイルにする度、愛姉は毎回そんな顔でミラー越しに俺のことを見上げていた。


自分の姿ではなく俺のことをずっと見上げていた。


俺が満足そうな、嬉しそうな顔をしていたのだと思う。


まだまだ未熟だった俺が初めて愛姉のこのクセ毛を可愛くした。


愛姉がいつも嫌がっていたクセ毛を、真っ直ぐに矯正したのではなく活かすことが出来た。


そのことに凄く満足をし、凄く嬉しい気持ちになっていた。


愛姉をこのヘアスタイルにする度に思い出す。
毎月毎月、思い出す。
愛姉のこのクセ毛を可愛くする為に、その為だけに両親から仕事を教わっていた頃の自分を。


性欲なんてまだよく分からなかった、恋も愛もよく分かっていなかった、純粋な気持ちだけで愛姉のことを想っていた気持ちを。


その気持ちを毎月思い出す度、俺は”あの頃“の自分に戻り満足し、嬉しい気持ちになっていた。


その瞬間だけは、忘れられた。


伝えることも出来ない、墓場まで持っていくこんな気持ちなんて、忘れられた。


俺が愛姉に触れることが許されるただ1つの時間を、俺はその時間にしていた。


それくらいだった・・・。


俺は、それくらいだった・・・。


その瞬間がなければ生きていくのがあまりにも辛いくらいの、それくらいの苦しさの中で一瞬一瞬を生きていた。


墓場まで持っていくはずだったこの気持ち悪い気持ちを、去年の年末に初めて青に打ち明けても尚、俺の苦しさは少しも楽にはならなかった。
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