亀の愛は万年先まで
30歳



”ノロマなダメ秘書の亀さん、また小関の当主が見付けてきた婚約者候補の男から断られたんだって?“



月に数度開かれる同年代の秘書達の集まり。
そこで30歳にもなって結婚1つ出来ない私のことを他の秘書達からまたそう言われた。



結婚だけではない・・・。
私はとにかくノロマで、清掃の仕事1つこなせないようなダメ秘書で、他の秘書達とは違い見た目も悪い。



「まったく、お前はどうしてこうなんだ・・・。
お前がこれから小関の“家“を支える秘書となる日など想像も出来ない。」



お父さんの部屋の中で今日もその言葉を言われる。



「ごめんなさい、私の育て方が悪かったんです・・・。」



お母さんが今日も自分のせいだとお父さんに謝罪をする。



「ごめんなさい・・・。」



お父さんとお母さんの子どもには見えない私が謝罪をする。



「俺が貰ってくる子どもを間違えただけだ、お前達のせいではない。」



お父さんとお母さんの子どもに見えないのは当たり前のことだった。
私はお父さんとお母さんの子どもではないのだから。



秘書は基本的には子どもを1人しか生まない。
それは遥か昔に財閥の主から決められたことで、どの秘書の家もそれを守り続けている。



でもお母さんが生んだ子どもは生まれた時には死んでしまっていた。
お母さんもその時に生死を彷徨ったそうだけど今はこうしてこの世にいる。
そして子宮がなくなってしまった後もここにいられるのは、小関の“家”の前当主にとってお父さんはとても優秀な秘書だったから。



お母さんは泣きながらもお父さんのことを見上げていて、立ち上がったお父さんはお母さんの頭を優しく撫でた。



私のことは1度も撫でたことなんてないその手で、優しく優しく撫でた。



「西川に残っている双子の妹、鶴の方を選ぶべきだった・・・。
一卵性の双子だからどちらを選んでも変わりはないと思っていた俺のミスだ。」



西川とは、遥か昔よりも更に昔、秘書が生む子どもの人数に制限が出来る直前に西川の所に生まれた2人目の子。
西川の”家“の2人目の秘書になる予定だった子どもは新しく出来た決まりにより秘書になることはなく、その代わりにその2人目の子どもは、秘書の”家“の子どもに”何か“があった時の為の子どもを生み育てるという役目を担う”家“となった。



「ご主人様がお前のことを呼んでいる。
俺からも謝罪をしているが、お前からも謝罪をするように。」



「はい・・・。」



”こんな風に生まれてごめんなさい。“



”こんな風にしか育つことが出来なくてごめんなさい。“



その言葉をお父さんとお母さんに言いたかったけれど、私はノロマだから今日もその言葉が言えることはなかった。
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