亀の愛は万年先まで
その日の夜



「その清掃を・・・私が・・・」


お父さんの部屋、険しい顔をしているお父さんの隣には心配な顔を隠すことをしていないお母さんの顔がある。


「米原(まいはら)の一人息子と永家の分家の娘との婚約の話が進み始めた。
本来だったら米原の息子は増田財閥の分家の1つ、増田の”家“の娘と婚姻をする予定で昔から婚約していた。
だがその婚約を米原の息子は最後の最後で破棄してきたのはつい先ほどのこと。
この短い間に永家がもう動き始めた。
米原の当主も前向きに検討しているという情報もある。
だが、うちの財閥の主は米原はウチに欲しいと、でもそれ以上に永家には絶対にやりたくないと思っておられる。」


動揺しかしていない私にお父さんがさっきよりも詳しく説明をしていく。


「米原の息子はうちのご主人様のご学友だったということもあり、先程財閥の主がわざわざご主人様の元にいらしていた。
米原の息子の弱みを知りたいとのことで・・・。」


お父さんが言葉を切った後、またすぐに続けた。


「そこでご主人様はこう答えたそうだ。」


凄く凄く不満そうな顔で・・・


「”俺の亀だ“、と・・・。」


そんなよく分からないことを言って・・・


「”あいつの弱みは俺の亀。
俺とあいつはこういう家に生まれた一人息子。
だから俺達はよく似ている。
そんなあいつは、心から好きではない娘と結婚した男である俺の末路に酷く動揺したのかもしれない。
家同士が決めた婚姻を破棄するくらいに動揺している今なら尚更、あいつの弱みは俺の亀しかない。“」


続きを聞いてもやっぱりよく分からないことを言っていて・・・


「”米原の”家“に亀はいない。
米原は昔から亀がいる俺のことを羨んでいた。
凄く凄く羨んでいて・・・俺も亀が欲しいなと、よく口にしていた。”と・・・ご主人様はそう答えていた。」


会ったこともなければ話を聞いたこともない、そんな米原様の話をお父さんの口から聞いた。


「俺には何も分からない話だったが、財閥の主からお前への命だ。
“掃除や清掃をしろとまでは言わない。
時間だけでも稼いでこい。”」


お父さんが私のことを上から下まで、まるで汚い物でも見るかのような目で見てきた。


「その顔と身体でどうにか出来るとは思えないが、秘書生命を掛けてでも時間を稼いでこい。」






·
< 3 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop