亀の愛は万年先まで
翌朝
「そんな着物ではなく、いつもの服で・・・。」
いつもの服とは比べ物にならない煌びやかな着物を着せられた私がご主人様の元へ仕事へ行く挨拶に行くと、ご主人様がベッドから身体を起こした後にそう言ってきた。
財閥の主からの命である重要な案件を実行しに行く私に、そう言ってきて・・・。
「せめて着物だけでもと思い娘に着せましたが・・・。」
お母さんが慌てた顔で私のことを上から下まで見てくる。
「かめ、かわいいよ!!」
「かぁぃぃ〜!!!」
「もしかして、かめけっこんしちゃうの・・・?」
ご主人様の所にいる小さな小さな2人の男の子が私のことを泣きそうな顔で見上げた。
「やだぁ〜!ぼく、かめとけっこんしたいのに〜!!!」
1人の男の子が私の元へ走ってきて、煌びやかな着物に泣き顔のまま突っ込んできた。
後でお母さんに叱られることは分かってはいたけれど、私は煌びやかな着物姿でいつものように男の子のことを抱き締めた。
そしたら、もう1人のもっと小さな小さな男の子もヨチヨチと私の元に歩いてきて、もっともっと大きく泣きながら私に両手を伸ばしてきたので、その男の子のこともこの手の中に入れた。
「私は何処にも行きませんよ。
私は坊っちゃん達の亀ですから。
死ぬまでずっと、坊っちゃん達と一緒にいる亀ですから。」
昔から何度も、お父さんは私と鶴のことを交換したいと西川の“家”に打診していた。
その度に今のご主人様は・・・当時の坊っちゃんは、当時の小関の当主に私のことを返さないようにお願いをしてくれていた。
それを当主からも聞き入れて貰えることはなかったけれど、普段私以外の人には口にしない願いを、坊っちゃんはその願いだけは必死に口にしていた。
”ごめんね、亀。
西川に今回はあの打診を受け入れられたとしても、俺が必ず迎えに行くから。
優秀な分家の男になって、父さんよりも出来る小関の“家”の男になって、財閥の主に認められる男になって、この家の当主になって、必ず亀のことを迎えに行くから。“
西川の”家“からその打診を受け入れられることはないままだったけれど、坊っちゃんは異例の若さで小関の”家“の当主になった。
“これからは俺が必ず亀のことを守るから、だから何処にも行かないで、亀。”
そう言った坊っちゃんに・・・ご主人様に、私は言った。
“私は何処にも行きませんよ。
私は坊っちゃんの・・・ご主人様の亀ですから。
死ぬまでずっと、坊っちゃんと一緒にいる亀ですから。“
私がいなくなるかもしれないと思い、必死に私のことを守ろうとしてくれていた坊っちゃんに毎回伝えていた言葉を、その時にも言った。
”結婚することに決まった。
それでも亀には俺の所にいて欲しいと思っている。
俺が愛しいるのは亀だけだから、秘書としてじゃなくて普通の女の子として、俺の所に変わらずいて欲しい。
亀の相手は俺が見付けるから、それまでは俺だけの所にいて欲しい。“
“私は何処にも行きませんよ。
私はご主人様の亀ですから。
死ぬまでずっと、ご主人様と一緒にいる亀ですから。“
ご主人様が結婚する時にも伝えたその言葉を、この小さな小さな男の子達にも伝えた。
愛するご主人様の可愛い可愛い子ども達にも、心からそう伝えた。
「亀にはいつもの服を。
すぐに準備をしてきてくれ。」
ご主人様はお母さんに向かってそう指示を出し、お母さんがご主人様の部屋を出た後に私に向かって笑い掛けた。
「亀はそれで良い・・・それが、良い。」
私の中にいつもいるご主人様の姿ではないけれど、見えた。
ガリガリになってしまいあの頃のご主人様とは別人のように見えるご主人様に重なるように、見えた。
”亀はそれで良い。それが良い。“
お父さんやお母さん、今はこの家からいなくなった小関の”家“の前当主や前奥様から叱られてばかりいた私に、ご主人様だけはいつもそう言ってくれていた。
そう言って・・・
ノロマでダメ秘書な亀である私のことを、いつも守り、いつも受け入れてくれ、いつも愛してくれていた。
「行っておいで、亀。」
最近すっかり見ることはなくなっていた、落ち着いている姿のご主人様が口を開いた。
「照之(てるゆき)の所に行っておいで。
照之は俺がずっと昔から見付けていた男だ。
そしてその照之も応えようとしてくれているのだと思っている。
こんなことになってしまった俺の願いに・・・。
30歳の亀が婚約者候補の男から断られたのを知って、恐らく照之も婚約を破棄してくれた。
明日死ぬかもしれない俺の心からの願いに応えようしてくれている、俺がずっと昔から見付けていた亀の相手、照之の所に行っておいで。」
その姿はあの頃のご主人様のままだった。
そんな風に、私には確かに見えた。
「そんな着物ではなく、いつもの服で・・・。」
いつもの服とは比べ物にならない煌びやかな着物を着せられた私がご主人様の元へ仕事へ行く挨拶に行くと、ご主人様がベッドから身体を起こした後にそう言ってきた。
財閥の主からの命である重要な案件を実行しに行く私に、そう言ってきて・・・。
「せめて着物だけでもと思い娘に着せましたが・・・。」
お母さんが慌てた顔で私のことを上から下まで見てくる。
「かめ、かわいいよ!!」
「かぁぃぃ〜!!!」
「もしかして、かめけっこんしちゃうの・・・?」
ご主人様の所にいる小さな小さな2人の男の子が私のことを泣きそうな顔で見上げた。
「やだぁ〜!ぼく、かめとけっこんしたいのに〜!!!」
1人の男の子が私の元へ走ってきて、煌びやかな着物に泣き顔のまま突っ込んできた。
後でお母さんに叱られることは分かってはいたけれど、私は煌びやかな着物姿でいつものように男の子のことを抱き締めた。
そしたら、もう1人のもっと小さな小さな男の子もヨチヨチと私の元に歩いてきて、もっともっと大きく泣きながら私に両手を伸ばしてきたので、その男の子のこともこの手の中に入れた。
「私は何処にも行きませんよ。
私は坊っちゃん達の亀ですから。
死ぬまでずっと、坊っちゃん達と一緒にいる亀ですから。」
昔から何度も、お父さんは私と鶴のことを交換したいと西川の“家”に打診していた。
その度に今のご主人様は・・・当時の坊っちゃんは、当時の小関の当主に私のことを返さないようにお願いをしてくれていた。
それを当主からも聞き入れて貰えることはなかったけれど、普段私以外の人には口にしない願いを、坊っちゃんはその願いだけは必死に口にしていた。
”ごめんね、亀。
西川に今回はあの打診を受け入れられたとしても、俺が必ず迎えに行くから。
優秀な分家の男になって、父さんよりも出来る小関の“家”の男になって、財閥の主に認められる男になって、この家の当主になって、必ず亀のことを迎えに行くから。“
西川の”家“からその打診を受け入れられることはないままだったけれど、坊っちゃんは異例の若さで小関の”家“の当主になった。
“これからは俺が必ず亀のことを守るから、だから何処にも行かないで、亀。”
そう言った坊っちゃんに・・・ご主人様に、私は言った。
“私は何処にも行きませんよ。
私は坊っちゃんの・・・ご主人様の亀ですから。
死ぬまでずっと、坊っちゃんと一緒にいる亀ですから。“
私がいなくなるかもしれないと思い、必死に私のことを守ろうとしてくれていた坊っちゃんに毎回伝えていた言葉を、その時にも言った。
”結婚することに決まった。
それでも亀には俺の所にいて欲しいと思っている。
俺が愛しいるのは亀だけだから、秘書としてじゃなくて普通の女の子として、俺の所に変わらずいて欲しい。
亀の相手は俺が見付けるから、それまでは俺だけの所にいて欲しい。“
“私は何処にも行きませんよ。
私はご主人様の亀ですから。
死ぬまでずっと、ご主人様と一緒にいる亀ですから。“
ご主人様が結婚する時にも伝えたその言葉を、この小さな小さな男の子達にも伝えた。
愛するご主人様の可愛い可愛い子ども達にも、心からそう伝えた。
「亀にはいつもの服を。
すぐに準備をしてきてくれ。」
ご主人様はお母さんに向かってそう指示を出し、お母さんがご主人様の部屋を出た後に私に向かって笑い掛けた。
「亀はそれで良い・・・それが、良い。」
私の中にいつもいるご主人様の姿ではないけれど、見えた。
ガリガリになってしまいあの頃のご主人様とは別人のように見えるご主人様に重なるように、見えた。
”亀はそれで良い。それが良い。“
お父さんやお母さん、今はこの家からいなくなった小関の”家“の前当主や前奥様から叱られてばかりいた私に、ご主人様だけはいつもそう言ってくれていた。
そう言って・・・
ノロマでダメ秘書な亀である私のことを、いつも守り、いつも受け入れてくれ、いつも愛してくれていた。
「行っておいで、亀。」
最近すっかり見ることはなくなっていた、落ち着いている姿のご主人様が口を開いた。
「照之(てるゆき)の所に行っておいで。
照之は俺がずっと昔から見付けていた男だ。
そしてその照之も応えようとしてくれているのだと思っている。
こんなことになってしまった俺の願いに・・・。
30歳の亀が婚約者候補の男から断られたのを知って、恐らく照之も婚約を破棄してくれた。
明日死ぬかもしれない俺の心からの願いに応えようしてくれている、俺がずっと昔から見付けていた亀の相手、照之の所に行っておいで。」
その姿はあの頃のご主人様のままだった。
そんな風に、私には確かに見えた。