亀の愛は万年先まで
少しだけ顔を上げているこの女の子の顔を見て、思い出した。
”この前“なんて言っているけれどずっと前・・・何年も前、ご主人様が奥様と初夜を過ごされている夜に私のことを助けてくれた女の子。
苦しくて苦しくて、夜の地面に蹲っていた私の前に現れた、小さな弟をおぶってあやしていた女の子。
その時に当たり前かのように私のことを助けてくれた女の子が、言った・・・。
「確か・・・小関の”家“、だっけ?
そこの秘書のお姉さんですよねぇ・・・?
えっと・・・鶴の方じゃなくて、亀の方の!
万年生きられる方の、亀さん!!」
「亀・・・。」
照之様が小さく呟いた後、私のことを見て嬉しそうに笑った。
「亀!!!!やっと会えた!!!!
あいつ、自慢話ばっかりで1度も会わせてくれなくて!!!!」
照之様はご主人様が私に見せるような顔とも違う、嬉しそうな顔をしていて。
「普通の女の子なのに偉いなって、俺いつも思ってたんだよ!!!
普通の女の子なのにああいう家の秘書になっちゃって、それでも毎日毎日弱音も吐かずに頑張ってて!!!」
照之様が笑いながら、でも悲しそうにも見える顔で私のことを真っ直ぐと見た。
「あいつの為に秘書としてこれからも頑張って欲しいなって、今もいつも思ってて。」
そんな当たり前のことを照之様が言った・・・。
「あいつが死んだら小関の遠い親戚からきっとあの”家“を乗っ取られる。
あそこの分家はあまり良くない噂も回ってる。」
「はい・・・。」
「あいつには息子が2人もいる。
あの女の子の顔には一切似ていない、あいつの血を濃く受け継いでいそうな息子が2人も。」
「はい・・・。」
さっきまで私が抱き締めていた2人の男の子達のことを思い出しながら、深く頷いた。
「あいつはもう長くない。
でも、あいつがいなくなった後、あの子達が大きくなるまではまだまだ長い。」
「はい。」
「だからそれまで、亀にはこれからも秘書として頑張って欲しいと俺は思う。」
誰も私に”頑張れ“と言ってくることはなかった。
私には頑張っても出来ないと、私は亀だからノロマでダメ秘書だと・・・、ご主人様だって私は普通の女の子だと、そう言って・・・。
誰も私に“頑張れ“と言ってくることはなかった。
“秘書として頑張れ“なんて、誰からも言って貰えることはない人生なのだと思っていた。
「鶴よりも長く、亀は万年生きるからな。
あの子達が大人になった後も秘書として頑張って欲しい、俺も亀に協力するから・・・・・・って、ごめん、泣かせて。
みんなに言われてるのに俺まで言うことじゃないな。」
大きく泣きながら、私は首を横に振った。
「初めて言って貰えました・・・。
“秘書として頑張れ”って・・・、初めてその言葉を貰いました・・・。」
涙を拭きながら照之様に笑い掛ける。
「凄く嬉しいです・・・。
凄く・・・凄く嬉しい・・・。
ご主人様から貰った饅頭と同じくらい、私は嬉しい・・・。
生涯忘れません・・・・。
私、もうずっと頑張れる・・・。
加藤の“家”に貰われただけの女だけど、私は小関の“家”の秘書として・・・ずっとずっと頑張れる・・・っっ。」
ご主人様のお友達である照之様を見詰める先には、見えた。
ご主人様が私に渡してくれていた甘い甘いお饅頭のお店が。
「お饅頭、みんなで食べませんかぁ?
私もお金は少しですけどまだありますし!」
“あの夜”、ご主人様への想いもご主人様の初夜のことも、私が全てを話してしまっていたその女の子がニヤニヤと笑いながら身体をゆっくりと起こした。
「話はそこでしましょうよ!!
私、亀さんのことを結構心配してたんです!!
亀さんともまたお話したいし!!」
自分よりも大きなお姉さんのことを軽々と背負っているこの女の子が、照之様と私のことを見下ろした。
「私はアエといいます。
若鮎のようにという想いでつけられた“アユ”という名前ですが、”ユ”が“エ”に見える程の字しか書けない父の元に生まれてしまって。
そんな家の私ですが、何かのご縁ですし私もご一緒していいですか?」
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”この前“なんて言っているけれどずっと前・・・何年も前、ご主人様が奥様と初夜を過ごされている夜に私のことを助けてくれた女の子。
苦しくて苦しくて、夜の地面に蹲っていた私の前に現れた、小さな弟をおぶってあやしていた女の子。
その時に当たり前かのように私のことを助けてくれた女の子が、言った・・・。
「確か・・・小関の”家“、だっけ?
そこの秘書のお姉さんですよねぇ・・・?
えっと・・・鶴の方じゃなくて、亀の方の!
万年生きられる方の、亀さん!!」
「亀・・・。」
照之様が小さく呟いた後、私のことを見て嬉しそうに笑った。
「亀!!!!やっと会えた!!!!
あいつ、自慢話ばっかりで1度も会わせてくれなくて!!!!」
照之様はご主人様が私に見せるような顔とも違う、嬉しそうな顔をしていて。
「普通の女の子なのに偉いなって、俺いつも思ってたんだよ!!!
普通の女の子なのにああいう家の秘書になっちゃって、それでも毎日毎日弱音も吐かずに頑張ってて!!!」
照之様が笑いながら、でも悲しそうにも見える顔で私のことを真っ直ぐと見た。
「あいつの為に秘書としてこれからも頑張って欲しいなって、今もいつも思ってて。」
そんな当たり前のことを照之様が言った・・・。
「あいつが死んだら小関の遠い親戚からきっとあの”家“を乗っ取られる。
あそこの分家はあまり良くない噂も回ってる。」
「はい・・・。」
「あいつには息子が2人もいる。
あの女の子の顔には一切似ていない、あいつの血を濃く受け継いでいそうな息子が2人も。」
「はい・・・。」
さっきまで私が抱き締めていた2人の男の子達のことを思い出しながら、深く頷いた。
「あいつはもう長くない。
でも、あいつがいなくなった後、あの子達が大きくなるまではまだまだ長い。」
「はい。」
「だからそれまで、亀にはこれからも秘書として頑張って欲しいと俺は思う。」
誰も私に”頑張れ“と言ってくることはなかった。
私には頑張っても出来ないと、私は亀だからノロマでダメ秘書だと・・・、ご主人様だって私は普通の女の子だと、そう言って・・・。
誰も私に“頑張れ“と言ってくることはなかった。
“秘書として頑張れ“なんて、誰からも言って貰えることはない人生なのだと思っていた。
「鶴よりも長く、亀は万年生きるからな。
あの子達が大人になった後も秘書として頑張って欲しい、俺も亀に協力するから・・・・・・って、ごめん、泣かせて。
みんなに言われてるのに俺まで言うことじゃないな。」
大きく泣きながら、私は首を横に振った。
「初めて言って貰えました・・・。
“秘書として頑張れ”って・・・、初めてその言葉を貰いました・・・。」
涙を拭きながら照之様に笑い掛ける。
「凄く嬉しいです・・・。
凄く・・・凄く嬉しい・・・。
ご主人様から貰った饅頭と同じくらい、私は嬉しい・・・。
生涯忘れません・・・・。
私、もうずっと頑張れる・・・。
加藤の“家”に貰われただけの女だけど、私は小関の“家”の秘書として・・・ずっとずっと頑張れる・・・っっ。」
ご主人様のお友達である照之様を見詰める先には、見えた。
ご主人様が私に渡してくれていた甘い甘いお饅頭のお店が。
「お饅頭、みんなで食べませんかぁ?
私もお金は少しですけどまだありますし!」
“あの夜”、ご主人様への想いもご主人様の初夜のことも、私が全てを話してしまっていたその女の子がニヤニヤと笑いながら身体をゆっくりと起こした。
「話はそこでしましょうよ!!
私、亀さんのことを結構心配してたんです!!
亀さんともまたお話したいし!!」
自分よりも大きなお姉さんのことを軽々と背負っているこの女の子が、照之様と私のことを見下ろした。
「私はアエといいます。
若鮎のようにという想いでつけられた“アユ”という名前ですが、”ユ”が“エ”に見える程の字しか書けない父の元に生まれてしまって。
そんな家の私ですが、何かのご縁ですし私もご一緒していいですか?」
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