自らを越えて
第二章 成績発表
浜田と高木
高校進学時には初クラスでの自己紹介などなかった。中学時同様にアイウエオ順に近い席決めとなり男女も混合であった。当初は中学時代の余勢を駆ってまわりの連中との会話に勤しみ浮き上がることもなかったが、ただ女子とのそれは至って苦手で(と云うよりも奥手で)殆ど無視を決め込んでいた。前席の浜田という男子生徒や二三席離れたところにいた高木とかいうやつと気が合ってよくしゃべり、特に浜田とは連れ立っていっしょに昼食を取りになど行ったものだ。その時は気づかなかったがこの浜田が他人に対してよく目の行く生徒で(前章で述べた既に自分本位ではない、他人指向の出来る生徒だった)、一方高木の方はこちらは単にお調子者の類、即ち形を変えた未だ自分本位なやつでしかなかった。しかし斯く云う俺自身が高木を越えるその範疇の手合いだったので、自分を受け入れてくれそうな他生徒と出来るだけ多く繋がりを持とうとしているのに過ぎなかったのだ。ただそれをいかにして?が問題なのだが、高木のように自分を剽軽にアピールするならまだしも、件の成績指向のままだったから、勉強が出来ることを皆に知られるならば、そのうち求めずともそれは得られるだろうなどと高を括っていたのだった。とにかく、クラスメートに受け入れられることが一大命題でありながら、その為に他の生徒を理解しよう、こちらから関係を求めて行こうなどとはしなかった(できなかった)。浜田が純粋な親交を求めてくれたのにも拘らず、剽軽な高木に目が移ってしまい、彼との仲の良さを示そうとしたり、また他の生徒すべてに八方美人的な(しかし受け身的な)態度でしかなかったものだから、そうこうする内にとうとう浜田からも愛想をつかされてしまった。背が高く髪の毛が自然な茶色で、色白だったが男らしいやつだった。俺のみならず誰に対しても自然体で、相手への理解を先とするような浜田。彼に習いながらこれを良き友とすべきだったのだが豈図らんや後の祭りというやつである。高木などは俺の力量をすぐに見限って、幾許もなくけんもほろろになってしまったし、学期が代わって席順なども変わるにつれて俺の孤独の影は徐々に深まって行った。またぞろすっかり忘れていた小学校時分の悪夢が再燃しそうな雰囲気となって来た。ずるずると蟻地獄に落ち込むような塩梅なのだがさてこの頃のこと、前章で綴った守護霊とは真逆の存在が、むくむくと俺の心の中でそのテリトリーを広げようとしていた。