自らを越えて
第九章 3人のアポ(1)一人目

美味しい柴漬け

〔※ここから新章と致します。アポとは何か?説明してもいいですがそれよりは謎掛けのようにしておいて、これ以降のどこかの時点で語ることと致しましょう。それでも少しだけヒントを云えばギリシャ神話のアポロンに大いに関係のあるネーミングということになります。もっとも始めに現れるアポはあたかも例のあの「黒い霧」が現象化したような人物かも知れないのです。これは謂わば人生における反面教師とでもなりましょうか(実はあのクリスマスキャロルの3人のゴーストと同じ設定なのです)…?〕

黙々と食べ始め沢の出会いで汲んできた葛葉の名水を飲む。3人は?と見るならば大伴さんとミカが自分で作っただろうと思われる弁当を広げ、カナは俺同様におにぎりを頬張っている(恐らく同じおにぎり屋で買ったのだろう)。「これ食べない?村田君とカナ。柴漬けよ。おにぎりに合うでしょ。ミカも」と云って弁当箱とは別の容器に入れた漬け物を差し出す。旨そうだ。自分で作ったのだろうか?それを聞くミカに「そうよ。これ作るのに5日間かかったのよ。美味しいわよ。さ、召し上がれ」と答え勧めるが俺は手が出ない。まずカナとミカが取ってくれ、先に手を出すとカナとミカに「汚い」という顔をされそうだ。しかし「はい、村田君」と云って大伴さんが俺の目の前に容器を差し出す。「じゃ、いただきます」と云って左手で一切れを取ってそれを右手に移し口の中へと入れる。う、旨い。マドンナのお手製と思えばなおさら旨い。感激の表情を隠さずに「美味しいです。ホントに」と告げる。実際のところこんな、女性から手料理を具されるなんてことは始めてのことでそれだけでも感激なのだった。
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