自らを越えて

カナ!このバカヤロ!

3人上り終わっても俺は気になって岩の淵に立って最後のカナを待っている。カナは「そこをどけよ」と云いざま滑り台を一気に駆け上がって来た。まったく、ホールドも何もないところを危ないなと思った刹那右足を滑らせたカナが滑落しそうになった。「危ない!」と云いざま俺は姿勢を低くしてカナの右手首をつかみ力まかせに一気に身体を引き上げた。最後の岩を上り終わったと云ってはミカと喜び合っていた大伴さんがすっ飛んでくる。まさかカナが云うことを聞かずに滑り台を駆け上って来るとは思わなかったのだ。まだ俺の右手を両手でつかんだままで自失気味のカナに「カナ!このバカヤロ!なんで村田君の云うことを聞かないの!」と叱り飛ばす。しかしそう云いながらもカナの身体を確保するように支えながら「あー、でもよかったあ…村田君ありがとね。もしカナが落ちてたらあたし…」とカナの無事に安堵することしきりである。いまさらのように寄って来たミカともども俺たちを岩の淵から奥へ誘おうとするが、ようやく自分を取り戻した風のカナが平然を装って「へん、何よ、大伴さん、大騒ぎしないでよ。ちょっと足を滑らせたぐらいでさ」と云うのに「何を云ってるの!ここから下を見てごらん!」と、再び剣幕を起こしてはカナに下を指差す。下から見ればさほどでもない大岩だが上から見ると結構な高さである。もしここを転げ落ちていたら無事では済まなかったろう。それに気づいた風のカナだったがそれを認めずに「ふん、だいじょうぶだよ、こんなとこ。転げ落ちたって別にどうってことないよ」と嘯く。それへ「あー、もういい!とにかくもう、みんなこっちへおいで!」と云っては大伴さんが俺たちを奥へと誘った。その場でとにかく村田君に礼を云うようにとか散々カナに説教を垂れる。しかしさきほどミカに「いまに見てなよ」と云った手前かそれとも絶対的なツッパリ根性ゆえか、俺への礼も含めてカナは如何(いっか)な聞く耳を持ちそうにない。
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