自らを越えて

期末テスト成績発表

ところでちょっと話が逸れるが、ここで論じている友の有無やその功罪を語るに、かの大・正覚者たる仏陀の言葉でこういうものがあるので紹介したい。「良き友の存在は仏道修業のすべてである…と云ってもいい。お前たち(仏弟子)もこれからは良き友の為にひたすらに生きよ」というものである。浜田と高木はこれへの寓意として使わせてもらったとも云えるが、しかし実はそんな寓意どころではない、お釈迦様のこのお言葉の何たるかを、切ないほどに身で感じさせてもらえる人が、このあと章を変えて登場することとなる。はからずもそれは女性だったのだが、それを語るのは今はしばらくお待ち願いたい…。

 さてこんな理など未だつゆ知らず、迷妄の真っ只中にあった俺は何とかクラスメートの好意を得ようと、ただひたすら勉学に勤しむこととなった。予習復習を怠らず心中で『ちきしょう、ちきしょう』と毒づきながらの凄惨な行だったが却ってそれが励みになったものか、一年生の終り頃にはかなり結果が伴うものとなっていた。しかしその結果とは単に成績だけのことで、皆からの好意・厚遇は相も変わらず得られず、〝孤独の村田君”でしかなかったのだ。都度行われる全校的テストで好結果を出して、成績優秀者として廊下の掲示板に名が張り出されることがあってもそれは同じだった。呻吟の日々が続いたがそうこうする内に迎えたその年の期末テストでのこと、出題への読みがピタリと当たって、その試験結果には充分過ぎるほどの自信があった。いつものように廊下に模造紙で張り出された成績優秀者名簿を見ようと、俺は一階職員室横の掲示場へと赴いた。そこには十数名ほどの生徒たちが既に屯していて何やかやと論じ合っている。その陰からそっと模造紙を覗いてみると、何と、この俺の名前が最右端に記されてあった。「村田建三郎」と確かに一番右に記されてある。俺は「やったー!」とばかり心中で舞い上がり、且つ顔が紅潮してくるのを止められなくなった。今度こそはこの俺が一番である。無視できるものならしてみるがいいという気にさえもなる。
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