自らを越えて
他生徒らの意外な反応
まったく、中学時代以上の立派な成績をこうして都度示しているのに、なんで皆は俺にチヤホヤしないんだ?俺を持ち上げようとしないんだ?…が正直なところだった俺に憤懣のやる方などありようもなかった。今度こそはそういうことはあるまい、ここからが中学時代の再来となる、ようやく花の高校生活の始まりだ…などと妄想したその瞬間は、確かに高校時代におけるその指向での最幸福な一瞬だったろう。しかしその直後にそれとは真反対の、恰も崖下に突き落とされるような、最悪の体験が迫っていることまでは、その時はまだ気づかないでいた。俺は何とか気の高まりを抑えながらやおら廻りの生徒たちの反応に気を配り始めた。耳に心地よいに違いない皆の反応を聞こうと、その耳をそばだてたのである。まず前にいた男子生徒二人連れの会話。「村田?村田って誰だい?」「知らねえなあ、そんなやつ」にしかしガクッとくる。知らないとは何だ!?いやしくも入学来一年近くを共に校門をくぐった仲ではないか…などと心中で抗議したが、もっとも普段“教室内ニート”をしていた我が身に照らせば彼らの反応も仕方ないかとも思ってしまう。第一こっちだってその二人の顔を知らなかったのだから(普段から歩く時は下ばかり向いていて他人の顔を見ないのだ)。彼らの向こう隣にいた女子生徒二人連れは些かでもましだった、少なくとも俺の名前を知っていたから。「村田建三郎だって…凄い名前。よくここに出てるけど、どんな子だっけ?」「知らない。村田健次君と間違えたんじゃない?」「違うわよ。だいいち健坊なんてボンクラじゃない」「あ、そうか。じゃあたぶんドワンゴ(通学・通信とも可能な私立校)タイプの子よ。普段は家に居て通学してないのよ」「おめーな、ここは県立だっちゅうの」…俺は透明人間か!?と抗議したいが出来る俺ではない。この予期しない反応に少なからず面食らっていると今度は見知った顔の生徒がやって来た。つまり同クラスの男子生徒だったが立ち止まることなく名簿を見上げながら「村田か、フン」と一言評を云って立ち去ってくれた。休み時間を利用して次々と見にやって来る生徒たちは、同クラスも異クラスの奴らもその反応は殆ど同じだった。模造紙に背を向けて廊下の窓から表を見るふりをしながらその実こいつらのリアクションを探っていた俺の肩は完全に落ちた。