自らを越えて
惚れてんだよ、お前に、女みたいに
その野口が親分に「ところでさ、親分、気づいてる?これってさ、つまり奴が首席を奪ったのはお前への意志表示だぜ」と余計なことを云う。「ん?意思表示?意思表示って…何の?俺への挑戦、負けじ魂ってか?」「笑わすなよ。奴にそんな根性なんてあるかよ。そうじゃなくって、惚れてんだよ、お前に。女みたいに。ホントはお前に仲良くしてもらいたいんだけど、気が弱くって云い出せないもんだからさ、こうやって成績でアピールしてお前に認めてほしいんだよ。声をかけてほしいのさ、お前からな。うふふ、可愛いじゃないか、花田。今度会ったら一声褒めてやれよ。そしたらアイツ、飛び上がって喜ぶぜ」やおら向かって行って野口の胸倉を摑む度胸は毛頭俺にはない。しかしこうまで白痴(コケ)にされればもう充分だった、すぐに立ち去ろうとしたがしかしどうしても花田のひとことが聞きたかった。絶対に彼らの目に入らないよう他生徒らの陰に逃げつ隠れつしながらかろうじて俺は踏みとどまる。だが豈図らんや結局それが俺に道を踏み外させるべき決定的な一撃と相なったのだった。