自らを越えて

魔女ミユキ

「つまらんことを云うな。俺と親しくしたいんだったら自分から声をかけてくればいいじゃないか。ふん、もしお前の云ったことが本当だったらそんなやつは男じゃない。前から虫の好かないやつだが、それなら今度会った時にこう云ってやろうじゃないか。おい、末成り、テスト頑張ったじゃないか。ご褒美に一つ、今度デートにでも誘ってやろうか?ってな。それで怒って向かって来るようなら見直してやるぜ」と、こう、花田は云ったのだ。デート云々を聞いて野口と佐藤が声を立てて笑う。野口が「無理、無理」と大仰に手を振ってみせる。俺はもう何もかも判らなくなって足元を乱しながら闇雲にその場から離れようとした。しかし悪い時には悪いことが重なるものでちょうどこの時ミユキという名の、いつも花田に秋波を送っている女子生徒がやって来て、更なる引導をこの俺に渡してくれたのだった。子悪魔的な、コケティッシュな感じのする女の子だったが、その悪魔的な超能力でもあったものか、花田一派らの会話と側に隠れている俺の様子までちゃんと摑んでいて、花田にこうご注進に及んだのだった。「おーやぶん(とは花田の渾名)、末成り君、すぐそこにいるよ。ほら」と隠れている俺を指差してくれたのだ。のみならず「可哀そうに。末成り君、顔を真っ赤にしてるじゃない。脅かしちゃダメだよ。この子、親分に認められたいんだから。ね、末成り君」。頭の中をすっかり真っ白にさせた俺はミユキも誰も委細構わずこの場からただ離れようとする。誰かの足に躓いて見っともなくも床に転んだ。「痛いわねえ。ちょっとお、気を付けてよ!」声で女子生徒と知れたが謝るでもなく立ち上がって、更に誰彼にぶつかりながら去って行く。その俺の背に「おい、末成り、どこへ行く?!謝らんか!首席のお前がいなくなってどうする。俺がガリ勉村田だと皆に宣言せんか!」と花田。それへ野口、佐藤、ミユキの大きな嘲笑が重なった…。
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