自らを越えて

図書館はワンダーワールド

そう云われても一言もなかったのだが、しかし、はて、万能の神に於かれては、万に一つでも間違われることがあるのだろうか?
 とにかく、例の、受験勉強にはまったく用をなさない図書館通いも含めて一切を改めるべく、俺は明日と明後日が日・祝の連休となっていたので、この二日間を利用して一大禊を敢行すべく、丹沢登山を思い立ったのである。九月も下旬の頃であった。この丹沢への登山は高校生になってから始めたもので、きっかけはやはり図書館だった。中原図書館ではなく県立紅葉坂図書館の方。中学校の社会見学で同図書館と隣接していたプラネタリウムを訪れた際に知ったこの図書館は、以後俺の大のお気に入りスポットとなり、日・祭日などを利用しては時折りでも通っていたのである。ここの旧館2Fにあった旅行・地理コーナーで丹沢登山や富士登山の魅力を知り、以後前者を敢行するようになっていた(富士登山の方は往時は確かまだ1回だけ)。馬鹿とヤギは高い所が好きなどと巷で云われるが俺もその口だ。但しいかなる馬鹿なのかは往時は知らず、またその馬鹿さ加減に果てしはなかったということもやはり知らずにいたのである。とにかく、小中学生時の県立川崎図書館とも合わせて、この二つの県立図書館は、俺にとっては夢と知識を育むワンダーワールドそのものに他ならなかった。シートン動物記や十五少年漂流記から始まってランボーの詩と放浪に至るまで、そのすべてを此処で夢体験し、それゆえ俺の原質は間違いなくこれら図書館で醸成されたものと云えるだろう。尤も真の原質は幼児期における奄美大島での体験にあることは前に述べた。
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